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珊瑚
さんご
作品ID4930
著者蒲 松齢
翻訳者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「聊斎志異」 明徳出版社
1997(平成9)年4月30日
入力者門田裕志
校正者松永正敏
公開 / 更新2007-09-24 / 2014-09-21
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 安大成は重慶の人であった。父は孝廉の科に及第した人であったが早く没くなり、弟の二成はまだ幼かった。大成は陳姓の家から幼な名を珊瑚という女を娶ったが、大成の母の沈というのは、感情のねじれた冷酷な女で、珊瑚を虐待したけれども、珊瑚はすこしも怨まなかった。そして、朝あさ早く起きては身じまいをして、母の所へ挨拶にいった。
 大成がその時病気になった。母は珊瑚がみだらであるからだといって、ある朝珊瑚を責め詬った。珊瑚は自分の室へ入って化粧をおとして母の前へいった。それを見て母はますます怒った。珊瑚は額を地に打ちつけてあやまった。大成は親孝行であった。それを見て鞭を執って珊瑚を打った。それで母の気がすこし晴れてその場は収まったが、母はそれからますます珊瑚を憎んで、珊瑚が心から仕えても一言も物をいわなかった。
 大成は母が珊瑚に怒っていることを知ったので、我が家に寝ずに他所で泊って、珊瑚と夫婦の交わりを絶っていることを見せたが、それでも母の気持ちはなおらなかった。何かにつけて怒り罵るのは皆珊瑚のとばっちりであった。大成は、
「妻をもらうのは、舅姑につかえさせるためなのだ。こんなことで何が妻だ。」
 といって、とうとう珊瑚を離縁して、老姨をつけて親里へ送らしたが、村を離れようとすると珊瑚は泣いて、
「女と生れて人の妻となることができないで、どうして両親に顔があわされよう。いっそ死ぬるがましだ。」
 といって、袖の中から剪刀を出して喉を突いた。老媼はびっくりして剪刀をもぎとったが、血は傷口から溢れ出て襟を沽した。老媼はそれで珊瑚を大成の叔母にあたる王という家へ伴れていった。王はやもめぐらしで夫はなかった。珊瑚はとうとうそこにいることになった。
 老媼が帰って来ると大成は、この事情を隠しているようにいいつけたが、母がそれをさとりはしないかと思って恐れた。で、数日して珊瑚の傷がすこし癒えかけたということを知ると、叔母の許へいって、門口で叔母に、
「叔母さん、あんな者を置いちゃいけない、おんだしなさい。」
 といった。叔母は、
「まァ、まァ、門口でそんなことをいってはいけない、お入りなさいよ。」
 といったが、大成は入らないで、
「おい、珊瑚出ていけ。こんな所にいてはいけない、出ろ、出ていけ。」
 といって怒鳴った。間もなく珊瑚は大成の前に出て来た。
「私にどんな罪がございましょう。」
 大成はいった。
「お母さんに仕えることができないじゃないか。」
 珊瑚は何かいいたそうにしながら何もいわないで、俯向いて啜り泣きをした。その泪には色があってそれに白い衫が染まったのであった。大成はいたましさにたえないので、いおうとしていた詞もよして引返した。
 それからまた二、三日して、母は珊瑚のことを聞き知った。怒って王家へいって汚い詞で王を誚めた。王も威張って負けていなかった。かえってさんざ…

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