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五通
ごつう
作品ID4931
著者蒲 松齢
翻訳者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「聊斎志異」 明徳出版社
1997(平成9)年4月30日
入力者門田裕志
校正者松永正敏
公開 / 更新2007-09-24 / 2014-09-21
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 南方に五通というみだらにして不思議な神のあるのは、なお北方に狐のあるようなものである。そして、北方の狐の祟りは、なおいろいろのことをして追いだすことができるが、江蘇浙江地方の五通に至っては、民家に美しい婦があるときっと己の所有として、親兄弟は黙って見ているばかりでどうすることもできなかった。それは害毒の烈しいものであった。
 呉中の質屋に邵弧という者があった。その細君は閻といって頗る美しい女であったが、ある夜自分の内室にいると一人の若い強そうな男が外から不意に入って来て、剣に手をかけて四辺を見まわしたので、婢や媼は恐れて逃げてしまった。閻も逃げようとしたが、若い男はその前に立ちふさがっていった。
「こわがることはない。わしは五通神の四郎だ。わしは、あんたが好きだから、あんたに禍をしやしない。」
 そういって嬰児を抱きあげるように抱きあげ、寝台の上に置いた。閻は恐れて気を失ってしまった。五通神はやがて寝台からおりて、
「五日したらまた来るよ。」
 といっていってしまった。弧はその夜門の外で典肆を張っていた。そこへ婢が奔って来て怪しい男の入って来たことを知らした。しかし弧はそれが五通ということを知っているので、そのままにしてあった。
 翌朝になって閻は病人のようになって起きることができなかった。弧はひどく心にはじて、家の者にいいつけて他人に話させないようにした。
 三、四日して閻はやっともとの体になったが、五日したらまた来るといった五通神の来るのを懼れて、その夜は婢や媼を内室の中へ寝かさずに外の舎へやって、ただ一人で燭に向って悲しそうにして待っていた。
 間もなく五通神の四郎は二人の仲間を伴れて入って来た。皆おっとりした少年であった。そこには一人の僮がいて酒肴を列べて酒盛の仕度をした。閻ははじて頭をたれていた。四郎はそれに強いて酒を飲まそうとしたが、閻は恐ろしいのでどうしても飲まなかった。
 四郎はじめ三人の者は、互いに杯をさしあって酒を飲みながら、
「大兄。」
「三弟。」
 などと呼びあった。
 夜半ごろになって上座に坐っていた二人の少年は起って、
「今日は四郎に美人を以て招かれたから、この次は、かならず二郎と五郎を邀えて、酒を買って健康を祝そう。」
 といって出ていった。
 四郎は閻の手をとって幃の中へ入っていった。閻はその手からのがれようとしたがのがれることができなかった。四郎が去った後で閻は羞と憤りにたえられないので自殺しようと思って、帯で環をこしらえて縊死しようとしたが、帯が断れて死ぬることができなかった。閻はそれにもこりずに死のうとしたが、そのつど帯が断れて死ぬることができないので、それを苦しいことに思った。
 四郎はいつも来ずに閻の体がよくなるのを待って来た。そのうちに二、三ヵ月たった。一家の者は皆生きた心地がしなかった。
 会稽に万という姓の男…

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