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暗黒星
あんこくせい
作品ID49329
原題THE END OF THE WORLD
著者ニューコム シモン
翻訳者黒岩 涙香
文字遣い新字新仮名
底本 「闇×幻想13[#「13」は指数]=黎明 幻想・怪奇名作選」 ペンギンカンパニー
1993(平成5)年7月20日
初出「萬朝報」1904(明治37)年5月6日~5月25日
入力者土屋隆
校正者宮城高志
公開 / 更新2010-06-27 / 2014-09-21
長さの目安約 39 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

一 驚くべき信号

一 「暗黒星! 暗黒星!」
 遥か天の一方に、怪しき暗黒星が現われたとの信号が、火星世界の天文台から発せられた。
 この信号がヒマラヤ山の絶頂にある我中央天文台に達し、中央天文台から全世界に電光信号を以て伝えた。
 この時の世界は、もはや学術上の発明なども数千年前に極度まで達して、この上に進歩する道が無く、極めて無事太平に、極めて静かに、何事も定滞の状とは為っていた、つまり科学的知識が応用の出来るだけ応用せられ、一歩だも進む余地が無くなってから既に数千年を経たのだ。人間の事務という事務は悉く機械の作用の如く完全に達せられる。戦争の如きも無くなった。万国公法が極点まで進歩して一切の条項が完備したから、国と国との間にどの様な問題が在っても総て公法の主義に従って落着する。
二 であるからこの頃の歴史には面白い事が少しも無い。面白いのはもう漠たる太古の霧に包まれ、よく分からぬほど以前の蛮族時代、人と人とが武器を以て戦争し、命の遣り取りをした頃の記事のみだ。
 新聞紙とても、日々発兌はするものの、何にも報道する事が無い。誕生と結婚と死亡との日表の様なもので、それに天気の報道が少しある。話の種にも成らぬ様なつまらぬ埋草は掲載せぬので、時によると「前号発兌以来、一つも注目するに足る事件無し」とのみ記して、他は皆余白の儘に存している新聞が、読者の家の戸口に置かれる事もある。
三 言葉は全世界通して同一である、総ての紳士が緑色の服に金色のボタンを付け、縁を赤く隈取った白い襟飾りを着ける、これより外に正服はない。
 最も遠隔した支那国すらも数千年前に列に入り全世界と同様に生活している。
四 まことに人心を動かした事件を尋ねれば、今より三千年前、初めて火星とこの世界と交通の開けた時代に遡らねばならぬ。これ以来は何事も無いのだ。この交通の開始は実に壮んな手段であった。何しろ火星の人種に見える程の合図を送るには、太陽の様な白熱の強い光を凝集して一哩四方の大光明となさねばならぬ。これだけの大光明を機械で以て使用するまでに幾千年の試験を要した。試験が済んで愈々実行したのは西伯里亜の広野に於いてであった。
 地球と火星との対面する度にこれを行なった。二回三回と対面したけれど何の功も無かった。
五 もはや火星からは返辞の無いものかと疑われたが、忽ち全世界の人は殆ど電気に打たれた如く驚動した。火星の表面から返辞があった。返辞と見る外は無い様に、強い光線が地球に向かって発射した。サアこの信号を解するのがむつかしい。その困難は仲々以て古物学者が太古のモアブ人の石碑文を解読する様な比では無かった。
 漸く解釈が出来て見ると、分かった。火星の人種は地球の人種よりも天文の知識がよほど優れている。新星の出現などは必ず知らせてくれる、その知らせ方は、本から末に行くに従い次第に薄色となる四…

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