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庚娘
こうじょう
作品ID4934
著者蒲 松齢
翻訳者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「聊斎志異」 明徳出版社
1997(平成9)年4月30日
入力者門田裕志
校正者松永正敏
公開 / 更新2007-09-30 / 2014-09-21
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 金大用は中州の旧家の子であった。尤太守の女で幼な名を庚娘というのを夫人に迎えたが、綺麗なうえに賢明であったから、夫婦の間もいたってむつましかった。ところで、流賊の乱が起って金の一家も離散した。金は戦乱の中を両親と庚娘を伴れて南の方へ逃げた。
 その途中で金は少年に遇った。それも細君と一緒に逃げていく者であったが、自分から、
「私は広陵の王十八という者です。どうか路案内をさしてください。」
 といった。金は喜んで一緒にいった。河の傍へいった時、庚娘はそっと金に囁いた。
「あの男と一緒に舟に乗ってはいけませんよ。あれは時どき私を見るのです。それにあの目は、動いて色が変りますから、心がゆるされませんよ。」
 金はそれを承知したが、王が心切に大きな舟をやとって来て、代って荷物を運んでくれたり、苦しいこともかまわずに世話をしてくれるので、同船をこばむこともできなかった。そのうえ若い細君を伴れているので、たいしたこともないだろうという思いもあった。そして一緒に舟に乗って、細君と庚娘とを一緒においていると、細君もひどくやさしいたちであった。
 王は船の舳に坐って櫓を漕いでいる船頭と囁いていた。それは親しくしている人のようであった。
 間もなく陽が入った。水路は遥かに遠く、四方は漫漫たる水で南北の方角も解らなかった。金はあたりを見まわしたが、物凄いのでひどく疑い怪しんだ。暫くして明るい月がやっとのぼった。見るとそのあたりは一めんの蘆であった。
 舟はもう舟がかりした。王は金と金の父親とを上へ呼んだ。二人は室の戸を開けて外へ出た。外は月の光で明るかった。王は隙を見て金を水の中へつきおとした。金の父親はそれを見て大声をあげようとすると、船頭が[#挿絵]でついた。金の父親もそのまま水の中へ落ちてしまった。金の母親がその声を聞いて出て窺いた。船頭がまた[#挿絵]でつきおとした。王はその時始めて、
「大変だ、大変だ、皆来てくれ。」
 といった。金の母親の出ていく時、庚娘は後にいて、そっとそれを窺いていたが、一家の者が尽く溺れてしまったことを知ると、もう驚かなかった。ただ泣いて、
「お父さんもお母さんも没くなって、私はどうしたらいいだろう。」
 といった。そこへ王が入って来て、
「奥さん、何も御心配なされることはありませんよ。私と一緒に金陵にお出でなさい。金陵には田地も家もあって、りっぱにくらしておりますから。」
 といった。庚娘は泣くことをやめていった。
「そうしていただくなら、私は他に心配することはありません。」
 王はひどく悦んで庚娘を大事にした。夜になってしまってから王は女を曳いて懽を求めた。女は体※[#「女+半」、265-15]に託してはぐらかした。王はそこで細君の所へいって寝た。
 初更がすぎたところで、王夫婦がやかましくいい争いをはじめたが、その由は解らなかった。それを…

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