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阿霞
あか
作品ID4935
著者蒲 松齢
翻訳者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「聊斎志異」 明徳出版社
1997(平成9)年4月30日
入力者門田裕志
校正者松永正敏
公開 / 更新2007-09-30 / 2014-09-21
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 文登の景星は少年の時から名があって人に重んぜられていた。陳生と隣りあわせに住んでいたが、そこと自分の書斎とは僅かに袖垣一つを隔てているにすぎなかった。
 ある日の夕暮、陳は荒れはてた寂しい所を通っていると、傍の松や柏の茂った中から女の啼く声が聞えて来た。近くへいってみると、横にしだれた樹の枝に帯をかけて、縊死しようとしているらしい者がいた。陳は、
「なぜ、そんなことをするのです。」
 といって訊いた。それは若い女であった。女は涕を拭いながら、
「母が遠くへまいりましたものですから、私を従兄の所へ頼んでありましたが、従兄がいけない男で、私の世話をしてくれないものですから、私は独りぼっちです。私は死ぬるがましです。」
 といってからまた泣いた。陳は枝にかけてある帯を解いて、
「困るなら結婚したらいいでしょう。」
 といって勧めた。女は、
「でも私は、ゆく所がないのですもの。」
 といった。陳は、
「では、私の家に暫くいるがいいでしょう。」
 といった。女は陳の言葉に従うことになった。陳は女を伴れて帰り、燈を点けてよく見ると、ひどく佳い容色をしていた。陳は悦んで自分の有にしようとした。女は大きな声をたててこばんだ。やかましくいう声が隣りまで聞えた。景は何事だろうと思って牆を乗り越えて窺きに来た。陳はそこで女を放した。女は景を見つけてじっと見ていたが、暫くしてそのまま走って出ていった。陳と景とは一緒になって逐っかけたが、どこへいったのか解らなくなってしまった。
 景は自分の室へ帰って戸を閉めて寝ようとした。と、さっきの女がすらすらと寝室の中から出て来た。景はびっくりして訊いた。
「なぜ、きみは、陳君の所から逃げたかね。」
 女はいった。
「あの方は、徳が薄いのに、福が浅いから、頼みにならないですわ。」
 景はひどく喜んで、
「きみは、何というのだ。」
 といって訊いた。女はいった。
「私の先祖が斉にいたものですから、斉を姓としてるのですよ。私の幼な名は阿霞といいますの。」
 二人は寝室の中へ入った。景はそこで冗談をいったが、女は笑ってこばまなかった。とうとう女は景の許にいることになった。景の書斎へ友人がたくさん来た。女はいつも奥の室に隠れていた。数日して女がいった。
「私、ちょっと帰ってまいります。それにここは人の出入が多くて、私がいては人に迷惑をかけますから、今から夜よるまいります。」
 といった。景は、
「きみの家はどこだね。」
 というと、女はいった。
「あまり遠くないことよ。」
 とうとう朝早く帰っていったが、夜になると果して来た。二人の間の懽愛はきわめて篤かった。また数日して女はいった。
「私たち二人の間は佳いのですけど、いってみると馴れあいですからね。私のお父様が官途に就いて、西域の方へいくことになって、明日お母さんを伴れて出発するのですから、それまで…

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