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翩翩
へんぺん
作品ID4937
著者蒲 松齢
翻訳者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「聊斎志異」 明徳出版社
1997(平成9)年4月30日
入力者門田裕志
校正者松永正敏
公開 / 更新2007-10-03 / 2014-09-21
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 羅子浮は汾の人であった。両親が早く亡くなったので、八、九歳のころから叔父の大業の許へ身を寄せていた。大業は国子左廂の官にいたが、金があって子がなかったので、羅をほんとうの子供のようにして可愛がった。
 羅は十四になって、良くない人に誘われて遊廓へ遊びにいくようになった。ちょうどその時金陵から来ている娼婦があって、それが郡の中に家を借りて住んでいた。羅はそれに惑溺して通っていたが、そのうちに娼婦は金陵へ返っていった。羅はそっと娼婦について逃げ出し、金陵へいって娼婦の家に半年ばかりもいたが、金がなくなったので、ひどく娼婦の女兄弟から冷遇せられるようになった。しかし、それでもまだ棄てられるほどではなかったが、間もなく瘡が出来て、それが潰れて牀席をよごしたので、とうとう逐い出された。
 羅は困って乞食になった。市の人は羅の瘡が臭いので遠くからそれをさけた。羅は他郷でのたれ死をするのが、恐ろしいので、乞食をしながら西へ西へと返っていった。毎日シナの里数で三、四十里も歩いて、やっと汾の境までいったが、敗れた着物を着てひどく汚くなっている自分の姿を顧みると、村の門を入っていって村の人に顔を合せることができなかった。しかし、それでも故郷が恋しいので、ためらいためらい歩いて村の近くまでいった。
 日がもう暮れていた。羅は山寺へいって宿をかろうと思った。その時向うから一人の女が来た。それは綺麗な仙女のような女であった。女は近くなると、
「どこへいらっしゃるのです。」
 といって訊いた。羅はほんとうのことを話した。すると女がいった。
「私は出家です。山の洞穴の中に家があります。おとめしてもよろしゅうございます。何も恐しいことはありませんよ。」
 羅は喜んで女についていった。女は深い山の中へ入っていった。そこに一つの洞穴があって、入口に渓の水が流れ、それに石橋をかけてあった。その石橋を渡って入っていくと石室が二つあって、そこには明るい光が照りわたっているので、燈火を用いる必要がなかった。女は羅にいいつけて汚いぼろぼろの着物を脱がして、渓の中へ入って体を洗わし、
「これで洗いますと、創がなおりますよ。」
 といった。女はまた障をよせて褥の塵を払って、羅に寝よと勧めて、
「すぐおやすみなさい、今晩あなたに着物をこしらえてあげます。」
 といった。羅が寝ると女は大きな芭蕉の葉のような葉を採って来て、それを切って縫いあわせて着物をこしらえた。羅は寝ながらそれを見ていた。女は着物をしあげるとたたんで枕頭へ置いていった。
「朝、お召しなさい。」
 そこで二人は榻を並べて寝た。羅は渓の水で洗ってから瘡の痛みがなくなっていたが、ひと眠りして創へ手をやってみると、もう乾いて痂ができていた。
 朝になって羅は起きようとしたが、宵に女がこしらえてくれた着物は芭蕉のような葉であるから、とても着られないだ…

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