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通俗講義 霊魂不滅論
つうぞくこうぎ れいこんふめつろん
作品ID49370
著者井上 円了
文字遣い新字新仮名
底本 「井上円了 妖怪学全集 第4巻」 柏書房
2000(平成12)年3月20日
入力者門田裕志
校正者Juki
公開 / 更新2017-06-06 / 2017-04-18
長さの目安約 153 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

自ら『霊魂不滅論』に題す


 余、さきに世間の俗論を退治せんと欲し、『破唯物論』と題する一書を著ししが、哲学専門の学者は、これを評して非科学的となし、あるいは空想憶断となすも、世間一般の人士は、その論なお高尚に過ぎて了解し難しとなす。余、ここにおいて、『破唯物論』より一層通俗、卑近の説明を、世に紹介するの必要を感ぜり。その後、地方歴遊の際、某所において、死後霊魂の滅不滅いかんをただせらる。余、これに答えて、「よろしく『破唯物論』につきて見るべし」と。客曰く、「『破唯物論』は高尚幽玄にして、浅学の輩その意を迎うるに苦しむ。願わくは、通俗、平易に弁明せられんことを」と。余、すなわち有志の請いに応じて、一夕、霊魂の通俗談を試みたり。今、その考案を敷衍して一冊子となし、題して『霊魂不滅論』という。世の専門学者、これを評して非科学的中の非科学的となすも、余があえて辞せざるところなり。
 今日、学者をもって称せらるるもの、多くは高尚の理屈を講じて自らこれを楽しみ、その言うところ一般の人に通ぜざるをもって、かえって得意となす風あり。余はこれを学者の利己主義と名づく。いやしくも世の学者たるものは、広く世人を教化するをもってその任となすものなれば、己の知るところは、広く人をして知らしめ、己の楽しむところはまた、広く人をして楽しましめざるべからず。これ、いわゆる学者の博愛主義なり。しかるに、高尚の学理を通俗化すれば、自然に非科学的となる傾向あり。これまた、勢いの免るべからざるところなり。しかして余は、たとい非科学的なりとの批評を招くも、その利己主義に陥らざらんことを望む。請う読者、これを了せよ。
 古来、人の最も深く怪しみ、かつ切に知らんことを欲するものは霊魂問題にして、その問題たるや、生死の迷いのよりて定まるところなり。ゆえに、学者もしこの迷いを定むるに至らば、実に博愛の大なるものというべし。ここにおいて、余は自ら信ずるところを通俗的に解説して、広く世の迷い人に諭すところあらんとす。もし専門の学者、いな利己的学者に対しては、他日、別に一論を草して大いに雌雄を争わんと欲す。読者、あわせてこれを了せよ。

明治三十二年二月一日
[#改ページ]

霊魂不滅論


第一回 発端
 近年、西洋学の流行に伴って、近眼の者がにわかに多くなりしは、なにびともよく承知していることなるが、肉眼ばかりの近眼でなくて、心眼までが近眼になりたるは、実に驚き入りたる次第であります。その一例は、世間の霊魂論について分かりましょう。まず、世間にて少々物知り顔を装っている連中は、十人中九人まで、霊魂は肉体とともに滅し、死後の世界は決してあるべからず、天堂地獄の説は妄談である、六道輪廻などは嘘八百を並べたるものである、釈迦は嘘つきの隊長、ヤソも詐偽師の親方のように言い触らし、人間は一生五十年の間さえ都合よくご…

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