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作品ID | 49375 |
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著者 | 井上 円了 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「井上円了 妖怪学全集 第4巻」 柏書房 2000(平成12)年3月20日 |
入力者 | 門田裕志 |
校正者 | 仙酔ゑびす |
公開 / 更新 | 2010-09-15 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 61 ページ(500字/頁で計算) |
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序
余、幼にして妖怪を聞くことを好み、長じてその理を究めんと欲し、事実を収集すること、ここにすでに五年。その今日まで、地方の書信の机上に堆積せるもの幾百通なるを知らずといえども、そのうち昨今、都鄙の別なく、上下ともに喋々するものは狐狗狸の一怪事なり。中等以下のものは、そのなんたるを知らざるをもって、ただ一にこれを狐狸、鬼神の所為に帰し、中等以上のものは、そのしからざるを信ずるも、これを解するゆえんを知らざるをもって、またこれを妖怪、不思議の一種に属す。これをもって、愚民のこれを妄信する、日一日よりはなはだしく、これより生ずるところの弊害、また決して少々にあらざるなり。ゆえに余は、学術上、その道理を明らかにして世人の惑いを開くは、方今文明の進歩上必要なることと信じ、ここに狐狗狸の原因事情を論明して、『妖怪玄談』第一集となす。その目次、左のごとし。
第一段 総論
第二段 コックリの仕方
第三段 コックリの伝来
第四段 コックリの原因
明治二十年五月上旬
著者誌
[#改ページ]
第一段 総論
第一節
洋の東西を論ぜず、世の古今を問わず、宇宙物心の諸象中、普通の道理をもって解釈すべからざるものあり。これを妖怪といい、あるいは不思議と称す。その妖怪、不思議と称するものにまたあまたの種類ありて、現今俗間に存するもの幾種あるを知らずといえども、しばらくこれを大別して二大種となす。すなわち、その第一種は内界より生ずるもの、第二種は外界に現ずるものこれなり。しかしてまた、内界より生ずるものに二種ありて、他人の媒介を経てことさらに行うものと、自己の身心の上に自然に発するものの別あり。ゆえに余は、妖怪の種類を分かちて、左の三種となさんとす。
第一種、すなわち外界に現ずるもの
幽霊、狐狸、天狗、犬神、祟、その他諸怪異
第二種、すなわち他人の媒介によりて行うもの
巫覡、神降ろし、人相見、墨色、卜筮、予言、祈祷、察心、催眠、その他諸幻術
第三種、すなわち自己の身心の上に発するもの
夢、夜行、神知、偶合、俗説、再生、癲狂、その他諸精神病
右の表を、あるいは左の図をもって示すべし。
┌外界(幽霊、狐狸等)
妖怪┤ ┌他人(巫覡、神降ろし等)
└内界┤
└自身(夢、夜行等)
今、この外界とはわが目前の物質世界をいい、内界とはわが体内の心性世界をいう。すなわち、夢、夜行等は心性の変動より生ずるはもちろん、巫覡、神降ろし等も心性作用の上に直接の関係を有するをもって、ここにこれを内界に属するなり。
第二節
この数種の妖怪の原因を解釈するの法、古今大いに異なるところあり。けだし、その異なるところあるは、人の賢愚、時代によりて同じからざるによる。古代の愚民は、万物おのおのその霊ありて奇異の作用を現ずるなりと信じ、あるいは一身重我といいて、一身に二様の我あり…