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封三娘
ほうさんじょう |
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作品ID | 4940 |
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著者 | 蒲 松齢 Ⓦ |
翻訳者 | 田中 貢太郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「聊斎志異」 明徳出版社 1997(平成9)年4月30日 |
入力者 | 門田裕志 |
校正者 | 松永正敏 |
公開 / 更新 | 2007-10-09 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 15 ページ(500字/頁で計算) |
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范十一娘は※城[#「田+鹿」、330-1]の祭酒の女であった。小さな時からきれいで、雅致のある姿をしていた。両親はそれをひどく可愛がって、結婚を申しこんで来る者があると、自分で選択さしたが、いつも可いというものがなかった。
ちょうど上元の日であった。水月寺の尼僧達が盂蘭盆会を行ったので、その日はそれに参詣する女が四方から集まって来た。十一娘も参詣してその席に列っていたが、一人の女が来て、たびたび自分の顔を見て何かいいたそうにするので、じっとその方に目をつけた。それは十六、七のすぐれてきれいな女であった。十一娘はその女が気に入ってうれしかったので、女の方を見つめた。女はかすかに笑って、
「あなたは范十一娘さんではありませんか。」
といった。十一娘は、
「はい。」
といって返事をした。すると女はいった。
「長いこと、あなたのお名前はうかがっておりましたが、ほんとに人のいったことは、虚じゃありませんでしたわ。」
十一娘は訊いた。
「あなたはどちらさまでしょう。」
女はいった。
「私、封という家の三ばん目の女ですの。すぐ隣村ですの。」
二人は手をとりあってうれしそうに話したが、その言葉は温やかでしとやかであった。二人はそこでひどく愛しあって、はなれることができないようになった。十一娘は封三娘が独りで来ているのに気がついて、
「なぜお伴れがありませんの。」
といって訊いた。三娘はいった。
「両親が早く亡くなって、家には老媼一人しかいないものですから、来ることができないのです。」
十一娘はもう帰ろうとした。三娘はその顔をじっと見つめて泣きだしそうにした。十一娘はぼうっとして気が遠くなった。とうとう十一娘は三娘を家へ伴れていこうとした。三娘はいった。
「あなたのお宅は立派なお宅ですし、私とはすこしも関係がありませんし、皆さんから何かいわれはしないでしょうか。」
十一娘は無理に勧めて伴れていこうとした。
「そんなことありませんわ、ぜひまいりましょう。」
三娘は、
「この次にいたしましょう。」
といっていこうとしなかった。十一娘はそこで別れて帰ることにして、金の釵をとって三娘にやった。三娘も髻の上にさした緑の簪をぬいて返しをした。
十一娘はそれから家へ帰ったが、三娘のことを思うとたえられなかった。そこで三娘のくれた簪を出してみた。それは金でもなければ玉でもなかった。家の人に見せてもだれもそれを知らなかった。十一娘はひどく不思議に思いながら、毎日三娘の来るのを待っていたが、来ないので悲しみのあまりに病気になった。両親はその故を訊いて、人をやって近村を訪ねさしたが、だれも知った者はなかった。
九月九日の重陽の日になった。十一娘は痩せてささえることもできないような体になっていた。両親は侍女にいいつけて強いて扶けて庭を見せにいかした。十一娘は東籬の下にかま…