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小翠
しょうすい
作品ID4942
著者蒲 松齢
翻訳者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「聊斎志異」 明徳出版社
1997(平成9)年4月30日
入力者門田裕志
校正者松永正敏
公開 / 更新2007-10-12 / 2014-09-21
長さの目安約 17 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 王太常は越人であった。少年の時、昼、榻の上で寝ていると、空が不意に曇って暗くなり、人きな雷がにわかに鳴りだした。一疋の猫のようで猫よりはすこし大きな獣が入って来て、榻の下に隠れるように入って体を延べたり屈めたりして離れなかった。
 暫くたって雷雨がやんだ。榻の下にいた獣はすぐ出ていったが、出ていく時に好く見るとどうしても猫でないから、そこでふと怖くなって、次の室にいる兄を呼んだ。兄はそれを聞いて喜んでいった。
「弟はきっと、ひどく貴い者になるだろう。これは狐が来て、雷霆の劫を避けていたのだ。」
 後、果して少年で進士になり、県令から侍御になった。その王は元豊という子供を生んだが、ひどい馬鹿で、十六になっても男女の道を知らなかった。そこで郷党では王と縁組する者がなかった。王はそれを憂えていた。ちょうどその時、一人の女が少女を伴れて王の家へ来て、その少女を元豊の夫人にしてくれといった。王夫妻はその少女に注意した。少女はにっと笑った。その顔なり容なりが仙女のように美しかった。二人は喜んで名を訊いた。女は自分達の姓は虞、少女の名は小翠で、年は十六であるといった。そこで少女を買い受ける金のことを相談した。すると女がいった。
「私と一緒にいると腹一ぱいたべることもできません。こうした大きなお宅に置いていただいて、下女下男を使って、おいしいものがたべられるなら、本人も満足ですし、私も安心します。金はいただかなくてよろしゅうございます。」
 王夫人は悦んで小翠をもらい受けることにして厚くもてなした。女はそこで小翠にいいつけて、王と王夫人に拝をさして、いいきかせた。
「このお二方は、今日からお前のお父さんお母さんだから、大事に事えなくてはいけないよ。私はひどく忙しいから、これから帰って、三、四日したらまた来るよ。」
 王は下男にいいつけて女を馬で帰そうとした。女は家はすぐ近いから、人手を煩わさなくても好いといって、とうとうそのまま帰っていった。小翠は悲しそうな顔もせずに、平気で匳の中からいろいろの模様を取り出して弄っていた。
 王夫人は小翠を可愛がった。夫人は三、四日しても小翠の母親が来ないので、家はどこかといって訊いてみたが、小翠は知らなかった。それではどの方角からどうして来たかと訊いたが、それもいうことができなかった。
 王夫妻はとうとう外の室をかまえて、元豊と小翠を夫婦にした。親戚の者は王の家で貧乏人の子供を拾って来て新婦にするということを聞いて皆で笑っていたが、小翠の美しい姿を見て驚き、もうだれも何もいわないようになった。
 小翠は美しいうえにまたひどく慧であった。能く翁姑の顔色を窺て事えた。王夫妻もなみはずれて小翠を可愛がった。それでも二人は嫁が馬鹿な悴を嫌いはしないかと思って恐れた。小翠はむやみに笑う癖があってよく謔をしたが、元豊を嫌うようなことはなかった。
 …

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