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日本出版協会論
にほんしゅっぱんきょうかいろん
著者嶋中 雄作
文字遣い新字新仮名
底本 「出版人の遺文 中央公論社 嶋中雄作」 栗田書店
1968(昭和43)年6月1日
初出「中央公論」1948(昭和23)年9月号
入力者鈴木厚司
校正者hitsuji
公開 / 更新2019-02-02 / 2019-01-29
長さの目安約 19 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



「あなたの方の出版協会というのはいつもゴタ/\揉めているようですが、どうしたというんですか?」
 こういって訊ねる人もある。しかしそういう人はどういうものかおおむね素人に限られているようである。素人に解ってもらうのは並大抵のことではないし、内容が複雑すぎるものだから、心苦しいが言葉を濁していつも逃げるよりほかなかった。ところで不思議なことに、多少とも文化とか出版とかに関心を持っていそうな人は、何と思ってか余り問題にしないことである。たまたま話題に上る場合にも、「醜態」の一語に片づけてしまって歯牙にかけようとしないのである。
 およそ世間では、問題の筋が通ってその核心が掴める間は話題にも上り論議もされるが、何が何だか訳が解らなくなると興味の関心からはずれて来るものらしい。民主再建の大切な事業をよそにして権力と利慾の争奪に終始しているような今の出版界の現状では、大抵の者が愛想をつかすのも無理はないと思う。私どもも終戦以来まる三年、随分根気よく我慢して来たつもりだが、とうとう我慢がしきれなくなって飛び出してしまった。飛び出したというより、ハミ出したという方が適当かも知れない。で、この機会に私は、戦時中われわれの受けた体験と戦後三年間の経過を基にして、日本出版協会がいかにあり、また如何にあらねばならないかを検討し、ややもすれば見失おうとするその正体を見極わめて見ようと思う。この国の知識人には見放され、読書人には軽蔑され、しかもわれわれ業界人をまでも置き去りにして、日本出版協会は果たしてどこへゆこうとしているのであろうか。



 出版協会をして、このような抜き差しならぬ状態に追い込んだものは一にわれわれ業者の責任である。これを打開する一人の業界人をも有たなかったことは、もとより業界の恥辱であるが、それよりも一般業界の知的水準が余りに低かったということが最も嘆かわしい災いでなければならぬ。が一面からいえば、この業界の水準を高度に引上げることが協会自体の最も端的な目的であって、いやしくもその水準の低さに乗じてますます混乱させるようなことは何人にも許されるべきではないのである。今後日本の民主化に一番重大な役割を演じなければならないはずの出版界が今日の状態では、まことに心細いきわみといわねばならない。であるから出版協会がさしあたりしなければならない仕事は眼前に山と積まれてあるはずだのに、かれらはいまだに戦時統制時代の夢を追い、その権力から離れまいとして汲々としている。まことによその見る目も憐れな次第である。「その数三千何百……」とかいって、会員数の多きを誇っているが、それは過去の弾圧暴戻がいかに甚だしかったか、という実証を示すようなものであって、多いことそのことが少しも自慢にはならないのである。もし出版協会が真に民主的自覚に基づいて再出発するのであったならば、統制時…

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