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怪譚小説の話
かいたんしょうせつのはなし
作品ID4951
著者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「怪奇・伝奇時代小説選集3 新怪談集」 春陽文庫、春陽堂書店
1999(平成11)年12月20日
入力者Hiroshi_O
校正者noriko saito
公開 / 更新2004-09-25 / 2014-09-18
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 私は物を書く時、面白い構想が浮ばないとか、筋が纏まらないとかいうような場あいには、六朝小説を出して読む。それは晋唐小説六十種で、当時の短篇を六十種集めた叢書であるが、それには歴史的な逸話があり、怪譚があり、奇譚があって、皆それぞれ面白い。泉鏡花子の『高野聖』は、その中の幻異志にある『板橋三娘子』から出発したものである。板橋に三娘女という宿屋をしている老婆があって、それが旅人に怪しい蕎麦の餅を啖わして、旅人を驢にして金をもうけていたところで、趙季和という男がそれを知って反対にその餅を老婆に啖わして老婆を驢にしたという話で、高野聖では幻術で旅人を馬にしたり猿にしたりする美しい女になっており、大体の構想に痕跡の拭うことのできないものはあるが、その他は間然する処のない独立した創作であり、また有数な傑作でもあって、上田秋成が『西湖佳話』の中の『雷峯怪蹟』をそっくり飜案して蛇性の婬にしたのとは甚だしい相違である。
 またその叢書の中の『幽怪録』には、岩見重太郎の緋狒退治というような人身御供の原話になっているものがある。それは唐の郭元振が、夜、旅をしていると、燈火の華やかな家があるので、泊めてもらおうと思って往くと、十七八の娘が一人泣きくずれている。聞いてみると、将軍と呼ばれている魔神の犠牲にせられようとしていた。そこで郭は、娘を慰めて待っていると、果して轎に乗って数多の供を伴れた男が来た。郭は珍しい肴を献上するといって、鹿の[#挿絵]を出すふりをして、その手を斬り落し、翌日血の痕をつけて往くと、大きな猪であったから殺して啖った。この幽怪録の話は、明の瞿佑の『剪燈新話』の中の申陽洞の記の粉本になっている。
 またその叢書の『続幽怪録』の中にある定婚店の話は、赤縄の縁の伝説である。韋固という者が結婚の事で人に逢う約束があって、朝早く竜興寺という寺へ往ったところで、一人の老人が階段の上で袋にもたれて物を読んでいた。韋固がそれは何かと云って聞くと、男女の結婚の事を書いたもので、袋の中には赤い縄があるが、その縄で男と女の魂を繋ぐと、どうしても夫婦になるといった。そこで自分の結婚の事を聞くと、それは調わない、君の細君になる女は今年三つで、十七にならんと結婚はできないが、今それは乞食のような野菜売の婆さんに抱かれて、毎日市場へ来ているといった。韋固は忌いましいので、下男にいいつけて殺しにやった。下男は子供の額に斬りつけて逃げてきたが、後十四年して細君を迎えたところで、その細君は何時も花鈿を額へ垂らしていた。理を聞いてみると、三つの時に兇漢に刺されて傷があるからだといった。
 要するに六朝小説は支那文学の源泉で、それが小説になり、戯曲になり、詩になり、その流れは『捜神記』『剪燈新話』『西湖佳話』『聊斎志異』というような怪譚小説になった。秋成の蛇性の婬は『西湖佳話』の飜案であるという事…

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