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其中日記
ごちゅうにっき |
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作品ID | 49605 |
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副題 | 11 (十一) 11 (じゅういち) |
著者 | 種田 山頭火 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「山頭火全集 第八巻」 春陽堂書店 1987(昭和62)年7月25日 |
入力者 | 小林繁雄 |
校正者 | 仙酔ゑびす |
公開 / 更新 | 2009-12-09 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 51 ページ(500字/頁で計算) |
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自省自戒
節度ある生活、省みて疚しくない生活、悔のない生活。
孤独に落ちつけ。――
物事を考へるはよろしい、考へなければならない、しかしクヨクヨするなかれ。
貧乏に敗けるな。――
物を粗末にしないことは尊い、しかも、ケチケチすることはみじめである、卑しくなるな。
酒を味へ。――
うまいと思ふかぎりは飲め、酔ひたいと思うて飲むのは嘘である。
水の流れるやうに、雲の行くやうに、咲いて枯れる雑草のやうに。
自然観賞、人生観照、時代認識、自己把握、沈潜思索、読書鑑賞。
句作、作つた句でなくして生れた句、空の句。
『身に反みて誠あれば楽これより大なるはなし』(孟子)
八月一日 晴。
早起して散歩した、夏山の朝のよろしさ。
省みて恥多く悔多し。
借金ほど嫌なものはない、その嫌なものから、私はいつまでも離れることが出来ない。
午後また散歩、W店でまた一杯。
暑い暑い、うまいうまい、ありがたいありがたい。
モウパツサンを読む、彼の不幸を思ふ。
八月二日 晴。
けさも早起して散歩。
おちつけ、おちつけ。
身辺整理、といふよりも身心整理。
ライクロフトの手記を読みなほす、ギツシングと私との間には共通なものがあるらしい。
夜、しみ/″\秋を感じた。
どうやらかうやら私はスランプから抜け出たらしい。
とにかく銭がないことはさみしい、いや、悩ましい、払はなければならないものが払へないのはほんたうに苦しい。
八月三日 晴。
早起、仰いで雲を観、俯して草を観る。
Sへ。――
汽車賃がないから歩いて行く、樹明君に事情を話して、手土産としてラツカース二罎借りる。……
寂しい悲しい訪問だつた。
泊る、東京から小さいお客さんが数人来てゐてうるさかつた。
酒はうまかつた。
八月四日 晴。
朝早く防府へ。――
佐波川で泳ぐ。
M君を訪ねる。
午後、徳山へ。――
途中、富海に下車して、追憶をあらたにした。
酔うてゐる間だけ楽しい。
白船君を訪ふ、忙しいので宿屋に泊めて貰ふ、たゞ/\酔うてゐる間だけが楽しい。
八月五日 晴。
午近くなつて帰途につく。
再び富海に下車して海に浸る。
白船君は落ちついてゐる、漣月君は元気いつぱいだ、さて私は。――
三田尻駅で、東路君に逢ふ、飲む、酔ふ、泊る。
八月六日 晴。
東路君来訪、朝から飲む、そして酔ふ。
夕方の汽車で帰庵。
八月七日 晴。
終日臥床、沈欝たへがたし。
八月八日 晴、立秋。
身心不安、たへきれなくなつて街へ、酔ひつぶれた。
八月九日 晴。
茫々として。――
八月十日 晴。
おなじく。
八月十一日 晴。
暑い/\。
街の米屋へ出かける、死なゝいかぎりは食べなければならない。
途上で暮羊君に出くわす、午後、同君がビールやら何やら持ちこんで来て、IさんJさんもやつて来て、愉快に…