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破れわらじ
やぶれわらじ
作品ID49690
著者三好 十郎
文字遣い新字新仮名
底本 「三好十郎の仕事 第三巻」 學藝書林
1968(昭和43年)9月30日
初出「破れわらじ」1954(昭和29年)11月、NHK放送
入力者伊藤時也
校正者伊藤時也、及川 雅
公開 / 更新2009-01-28 / 2014-09-21
長さの目安約 36 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#ここから2段組み]
お花
健二
六平
仲蔵
伍助
杉村
中年過ぎの女
五郎(肥前)
お銀
番頭一、二
松男
金一
三吉
通行人
およね
越後
豊後
陸前
サツマ
上州
マキ子
三河
岩見
井上医師
[#ここで2段組み終わり]

音楽(後のくだりのシンフォニイと同じ主題のオーヴァチュア)

音楽をバックにしてアナウンス。

アナウンスと音楽が止み、しばらくシーンとして。

不意にカーン、カーン、カーンと大なたで立木を刻む音が、山々にこだましてひびきわたる。
鋭い小鳥の声々。
時々、風にのって谷川の音がザーッと流れてくる。
――深い山奥の林の中の感じ。
「ヨッ、ホウ!」
と若い男の掛声、同時にカーンと立木の音。
その音を合図のように、少しはなれた所から、まだ成熟しきらない少女の、まるで少年の声にきこえるような堅い粗野な節まわしの歌。

お花 「やーれ」
山で赤いのは、こら
つつじに椿
それにからまる藤の花
ああ、チートコ、パートコ

やーれ
遠くはなれて、こら
逢いたい時は
月が鏡になればよい
ああ、チートコ、パートコ」

健二 相変らずのヘタクソじゃなあ、お花! おのしが唄うと、おれあ、向うずねばナタで叩つきるうごつある!
お花 あらあ、あんな事言うて……あたいの歌あ、こりでいいちうて、仲さんがほめてたのに……
健二 そんなら、後で六平の小父さんに唄うてもろうて、くらべて見ろ。仲は、ありゃ、おのしのすつこっあ、なんでんかんでん、よかきい。
お花 んなら、あんやん、唄うちみ。
健二 おりゃ、日田の山奥の木こりですばい……歌あ唄えんばってん、木を切りきりゃ、いいきのう……ヨッ、ホウ!

カーンと立木を切る音。
一方お花はゴシゴシと、小のこぎりを使いながら、
それに合わせて、

お花 「やーれ
月の出しをと、こら
約束したが
月は山かげ、主あどこに
やれ、チートコ、パートコ」

アッハハハハ、と二人が声を合せて笑う。

健二 そら、行くぞ、お花どいてろう……

カーンと打ちこんだ音でヒノキの大木がベリベリベリ、ザザザーッと倒れる音。
妹が兄に近づいて行き、

お花 こら、この汗だ、あんやん!

兄の背中を拭いてやる。

健二 (気持よさそうに)ふう! こいで丸市で入札したぶん、しめて十八本、すんだな? ここらで六平小父さんとこで昼めし食うか。
お花 落しの方へはこんどかんでも、いいか?
健二 うん、どうで仲が、筏くむ前に来るき、落しはひきうけたと云うとった。
お花 するちうと仲さんがここい来るちね?
健二 来ちゃ悪いっか? はは、さ行こ!
お花 うん……

兄弟は下生えを踏みわけながら傾斜を沢の方へくだって行く。その音……
健二がフッと立ちどまって、

健二 お花、おのしは、いくつになったか?
お花 え? なに?
健二 おのしゃ、いくつになった?
お花 あたしゃ…

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