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![]() ごちゅうにっき |
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作品ID | 49780 |
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副題 | 13 (十三) 13 (じゅうさん) |
著者 | 種田 山頭火 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「山頭火全集 第八巻」 春陽堂書店 1987(昭和62)年7月25日 |
入力者 | 小林繁雄 |
校正者 | 仙酔ゑびす |
公開 / 更新 | 2010-05-30 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 8 ページ(500字/頁で計算) |
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五月一日 晴――曇――雨。
早起、一風呂あびて一杯ひつかける、極楽々々!
七時のバスで帰庵。
留守中に敬君や樹明君や誰かゞ来庵したらしい、すまなかつた、残念なことをした。
何となく憂欝。――
W屋主人来庵。
風が出て来た、風はほんたうにさびしい、やりきれない。
午後、樹明君を訪ね、いつしよに街へ出かけて飲む、敬君にも出くわし、三人で飲む、酔ふ、どろ/\になつてしまつた、それでも戻ることは戻つた、つらかつた、やれ/\!
夜中に眼が覚めて、とてもさびしかつた、かなしかつた。
慎しむべきは酒なりけり! 老いてはつゝましかるべし!
五月二日 曇――雨。
身心整理する外ない、さうするには、さしあたり、旅に出る外ない、歩かう歩かう、風のまに/\!
夕方、ポストまで出かけたついでにシヨウチユウを買うて戻る、どうも米を買ふには足りない、それに気が欝いでたへきれなくなつた。
アルコールのおかげで快眠、うれしかつた。
五月三日 雨――曇。
欝々として楽しまない、幸にしてK社から句稿料が届いたので街へ出かけて二三杯呷る、その勢で山口へ行く、飲んで酔うてS屋に泊る、前後不覚、一切合切が空つぽになつた。
五月四日 曇。
朝帰庵、飯を炊いたり洗濯したり、そして読んだり考へたり、――労れていつとなし寝入りこんでしまつた。
五月五日 曇。
さらに転一歩。――
夕方、敬君酔うて来庵、いろ/\考へさせられる、同道してW店を襲ひ、私もまた酔ふ、帰つたのは十一時近かつたらう、そのまゝぐつすり睡つて、夜の明けるまでちつとも覚えなかつた、万歳々々!
途上点描
(旅日記ところ/″\)
五月六日――十九日
――まるで地獄だつた。
酔うては彷徨し、[#挿絵]めては慟哭した、自己冒涜と自己呵責との連続であつた。
私は人非人だ、Hがいふやうに穀つぶしだ。
Kに対して、Wさんに対して、何といふ背信忘恩であらう。
酒! あゝ酒のためだ、酒が悪いのではない、私が善くないのだ、酒に飲まれるほど弱い私よ、呪はれてあれ!
肉体的にはたうとう吐血した、精神的には自殺に面して悩み苦しんだ。
死、さうだ、死が最も簡単な解決、いや終局だ、狂、狂しうるほどの力もないのだ。
死、死、死、そして遂に死なゝかつた、死ねなかつた、辛うじて自分を取り戻した、そして……夜が――私の夜が明けたのである、幸にして(不幸にして、かも解らない)、私は私の私となつた。――
五月廿日 曇。
門外不出。――
下の家から梯子を借りて来て屋根を繕ふ、漏つて漏つて堪へきれなくなつたのだ、梅雨季も近づいてくるが、葺替代がないのだ、あぶなかつた、足すべらして落ちさうだつた。
日本案内記を読みつゞけて、旅したい心をなぐさめる。
珍らしいお客様があつた、Tさんが二人連れでやつてきて、静寂に感心して帰つていつた。
多々桜君の死は…