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「鐵」の字の古体と古代の文化
「てつ」のじのこたいとこだいのぶんか
作品ID49789
著者喜田 貞吉
文字遣い新字新仮名
底本 「喜田貞吉著作集 第一巻 石器時代と考古学」 平凡社
1981(昭和56)年7月30日
初出「民族と歴史 第一巻第三号」1919(大正8)年3月
入力者しだひろし
校正者杉浦鳥見
公開 / 更新2021-07-03 / 2021-06-28
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

「鐵」の字古く「銕」また「※[#「金+截」、U+496B、262-2]」に作る。「銕」の字は旁が「夷」に従っている。夷は東方異族の称で、「銕」はすなわち東夷の金の義である。東方の国早くこの金属を産し、シナに輸入したものと見える。『魏志』〔(弁辰伝)〕に「国鐵を出す、韓・[#挿絵]]・倭皆従ひて之を取る。諸市買ふに皆鉄を用ふ」とある。「神功紀」に、百済谷那の鉄山の事もある。わが国にも随処砂鉄を産する地多く、鉄を採るの術早く開けて、いわゆる青銅器時代を経ずして、太古の石器時代から、ただちに鉄器時代に移った場合が多かったようである。これは石器時代の遺蹟から、ただちに鉄※[#「金+宰」、U+28AC3、262-6]の出る遺蹟に続いている場所の少からぬによっても察せられる。
 次に「※[#「金+截」、U+496B、262-8]」の旁の「截」は「切」だ。その金属で作った刃物の切れ味が、従来の青銅器の刃物よりも鋭利であることを意味する。シナでは鉄器時代の前に青銅器時代があった。秦のころまでの武器が青銅で作られていたことは、『史記』に始皇帝が天下の兵を鋳潰して、十二の金人を作ったとあるのによっても察せられる。しかし鉄の利器が出来ては、青銅器の鋭利はとうてい鉄の切れ味よきに及ばぬ。
 そこで「※[#「金+截」、U+496B、262-12]」の字が出来た。わが国には古え軽箭・穴穂箭の名があった〔(「安康即位前紀」)〕。軽箭は青銅の鏃、穴穂箭は鉄の鏃が着いた箭である。允恭天皇の二皇子軽太子と、穴穂皇子すなわち安康天皇とが戦われたとき、青銅鏃の箭を使った軽太子が敗れて、鉄鏃の箭を使った穴穂皇子が勝利を得られた。軽箭はとうてい穴穂箭の敵ではなかった。このお話は青銅の利器が鉄の利器に駆逐さるるに至った状態を、伝説化したものであろう。別に青銅の利器を使う軍隊、鉄の利器を使う軍隊というような、そんな区別があったのではなく、両種の武器の優劣を、両皇子の争いに附会したに過ぎないものと察せられる。必ずしも「軽」と「穴穂」との名に、青銅と鉄との意義があるのではなかろう。
 ついでにいう。わが国にも太古青銅の利器がなかったのではない。筑紫鉾と言われた銅剣・銅鉾の類は、少からず土中から発掘される。しかしこれはシナ伝来の文化の結果で、現にわが国で製作せられ、わが国の意匠の表現せられたものがあっても、その製作法は起原をシナに有するものと察せられる。しかしてこれとは別に鉄の精煉は行われたものらしい。これらのことについては、他日別に詳説の機あることを期待する。

 この機会をもって、自分は一言懺悔せねばならぬことがある。
 たしか一昨年のころのことと思う。今の北野神社の宮司、当時は国学院大学長の山田〔(新一郎)〕法学士が、日本歴史地理学会で、日本においては銅器よりも、鉄の製造が前に発達したとのことを、長々と述…

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