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遺物・遺蹟と歴史研究
いぶつ・いせきとれきしけんきゅう
作品ID49791
著者喜田 貞吉
文字遣い新字新仮名
底本 「喜田貞吉著作集 第一巻 石器時代と考古学」 平凡社
1981(昭和56)年7月30日
初出「民族と歴史 第一巻第四号」1919(大正8)年4月
入力者しだひろし
校正者杉浦鳥見
公開 / 更新2021-05-24 / 2021-04-27
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 過去の住民たるわれらの祖先が遺した遺物・遺蹟が、過去におけるわれらの祖先の生活状態を明かにし、その変遷発達の蹟を示すうえにおいて、最も有益なる材料なるべきは言うまでもない。歴史家が史料として取り扱うべきものが、ひとり文字によって伝わった記録ばかりでなく、これら遺物・遺蹟またその重きをなすべきことは、今さらに余輩の贅言を要しないまでに公知の事実である。特に余輩の主として研究しようとする太古・上古の事蹟に関しては、文献きわめて少く、そのわずかに存するものも、多くは後代の思想をもって語られ、あるいは筆にせられたる伝説を主としたもので、ことにそれがある特殊なる階級にのみ関して存するというような時代のことについては、当時のものそのまま伝われる遺物・遺蹟の研究が、最も重要なる地位を占むべきは無論である。余輩が本誌〔(『民族と歴史』)〕の綱領において、ただに古今文献の調査のみならず、あまねく遺物・遺蹟・土俗・伝説・言語・信仰、その他人類学上、社会学上の諸研究に顧慮すべきことを呼号したのは、全くこれがためである。
 ここに遺物とは、主として古人の遺した物品のことであるが、その遺骨のごときも、やはり遺物といううちに数えてよい。また遺蹟とは彼らの住居蹟・墳墓、その他彼らの活動の蹟を止めた一切の場所を示すものである。しかしさらにこれを広くいえば、土俗・伝説・言語・信仰のごとき無形のものも、往々その中から古人の面影を髣髴し得べきものがあって、広義にはまたこれを遺物の一に数えてもよい。かくてそのいわゆる遺物・遺蹟が、今は実物に存せずして、文字によって伝えられているものもまた少くない。遺物・遺蹟研究の資料としては、これまたはなはだ重んずべきものである。しかしながら、今は論旨の散漫に渉るを避けんがために、土俗・伝説・言語・信仰等のことは、問題外としてしばらくこれを措き、もっぱら考古学者の扱ういわゆる遺物・遺蹟にのみ関して、歴史研究上の見地から、いささか管見を述べてみたい。
 遺物・遺蹟は普通に考古学者の研究の対象物として、取り扱われているものである。その考古学者の立場から見た扱い方については、本誌〔(第一巻)〕第二号において、「遺物・遺蹟と民族」の題下に、浜田〔(耕作)〕博士が要領を発表された。簡単ながらもさすがに専門家の所説として、十分傾聴すべきものと認める。しかしながら余輩は、さらに歴史家としての立場から、これらの遺物・遺蹟を、記録文書と同様に、歴史研究上の史料として取り扱ってみたい。
 考古学者はある遺物・遺蹟について、実物そのものの研究上より、その性質を明かにし、他の遺物・遺蹟との関係を尋ねて、その変遷発達の状態を知ろうとするをもって目的とする。しかして歴史家は、その結果をとってこれを自己の研究上に応用し、過去における民族の沿革を知ろうとするのである。
 従来歴史家が史料として…

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