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奥羽地方のシシ踊りと鹿供養
おううちほうのシシおどりとししくよう
作品ID49805
著者喜田 貞吉
文字遣い新字新仮名
底本 「先住民と差別 喜田貞吉歴史民俗学傑作選」 河出書房新社
2008(平成20)年1月30日
初出「歴史地理 第五八巻第四号」1931(昭和6)年10月
入力者川山隆
校正者しだひろし
公開 / 更新2010-12-06 / 2014-09-21
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

一 緒言

 奥羽地方には各地にシシ踊りと呼ばるる一種の民間舞踊がある。地方によって多少の相違はあるが、大体において獅子頭を頭につけた青年が、数人立ち交って古めかしい歌謡を歌いつつ、太鼓の音に和して勇壮なる舞踊を演ずるという点において一致している。したがって普通には獅子舞或いは越後獅子などの類で、獅子奮迅踴躍の状を表象したものとして解せられているが、奇態な事にはその旧仙台領地方に行わるるものが、その獅子頭に鹿の角を有し、他の地方のものにも、またそれぞれ短い二本の角が生えているのである。
 楽舞用具の一種として獅子頭の我が国に伝わった事は、すでに奈良朝の頃からであった。降って鎌倉時代以後には、民間舞踊の一つとして獅子舞の各地に行われた事が少からず文献に見えている。そしてかの越後獅子の如きは、その名残りの地方的に発達保存されたものであろう。獅子頭は謂うまでもなくライオンを表わしたもので、本来角があってはならぬ筈である。勿論それが理想化し、霊獣化して、彫刻家の意匠により、ことさらにそれに角を附加するという事は考えられぬでもない。武蔵南多摩郡元八王子村なる諏訪神社の獅子頭は、古来龍頭と呼ばれて二本の長い角が斜めに生えているので有名である。しかしながら、仙台領において特にそれが鹿の角であるという事は、これを霊獣化したとだけでは解釈されない。けだしもと鹿供養の意味から起った一種の田楽的舞踊で、それがシシ踊りと呼ばるる事から遂に獅子頭とまで転訛するに至り、しかもなお原始の鹿角を保存して、今日に及んでいるものであろう。以下その然る所以を説明してみる。

二 シシ踊りは鹿踊り

 今日ではシシと云えばただちにライオンを連想する。したがってシシ踊りがただちに獅子踊りであるとして解せられるに無理はないが、古くは猪及び鹿もまた普通にシシと呼ばれたものであった。そしてそれを区別すべく、前者をイノシシ、後者をカノシシと呼んだのであったが、今日ではカノシシの称呼は普通に失われて、イノシシの方のみが各地に保存されている状態である。
 案ずるにシシは宍すなわち肉の義である。古代野獣肉が普通に食用に供せられた時代において、猪鹿が最も多く捕獲せられ、したがって食膳に供せられるものは、主として猪の宍、鹿の宍であった、かくてその称呼が世人の口に、耳に親しくなった結果として、遂にそれがただちに猪または鹿そのものの名称の如くに用いられる様になったのである。そしてそれがさらに省かれて、単にシシを以て呼ばれる事になったのは、今日裁縫器械を単にミシンと呼んで通ずるが如きものである。しかもそのひとしくシシと呼ばれるものについても、地方によって相違があり、関西地方では後世猪がことに多かったが為に、猪にのみイノシシまたは単にシシという語が普通に行われて、鹿に対してはその語の保存せられる事が少なかったが、それと反対に…

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