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憑き物系統に関する民族的研究
つきものけいとうにかんするみんぞくてきけんきゅう
作品ID49814
副題その一例として飛騨の牛蒡種
そのいちれいとしてひだのごんぼだね
著者喜田 貞吉
文字遣い新字新仮名
底本 「先住民と差別 喜田貞吉歴史民俗学傑作選」 河出書房新社
2008(平成20)年1月30日
初出「民族と歴史 第八巻第一号」1922(大正11)年7月号
入力者川山隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2011-09-27 / 2014-09-16
長さの目安約 34 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

一 序論――術道の世襲と憑き物系統

 ここに憑き物系統とは、俗に狐持・犬神筋などと言われる所謂「物持筋」の事である。これがもし昔時の或る術を修得した暦博士や陰陽師の徒の、任意に識神を使役すると信ぜられたものの様に、その個人限りが有する一種の不可思議力であったならば、そこに系統も糸瓜もあったものではない。この場合もしその術を何人にも伝える事なくして、その人が死んでしまった時には、その術はその人の死とともに永く世に失われてしまって、よしや血を分けた子孫がそこに幾らも存在していても、全くその術からは無関係な、ただの人間になってしまうのである。算木一つの置き方で人を笑い死ぬまで笑わせたり、お座敷の真ん中に洪水を起して、畳の上で人を溺らせたりした様な恐ろしい奇術者も、僅かに今昔物語や吾妻鏡にその霊妙なる放れ業の記事を止めているのみで、後世その伝説が全く失われてしまったのはこれが為である。しかしこの様な技能を有する術者でも、やはり子は可愛い、孫はいとしい。ことにこれが為に社会から畏敬せられ、生活の安泰を保障される様なことであってみれば、どこまでもこれを子孫に相続させたくなる。ここにおいてか一子相伝とかいう様なことが始まり、はてはただ一子のみならず、一切の子孫がすべてこれを相伝することにもなる。かくてもとは師資相承であった筈の術道も、いつしか血脈相承となる。すべてのものが家柄によって保持せられることとなるのである。またこれを子孫の側から云ってみれば、父祖の有した或る霊妙なる不可思議力を継承するとして世間から認められる必要もあったので、なるべくそう見られる様にと努力したに相違ない。かくて彼らはその秘法の外間に漏れることを恐れて、なるべく俗人等との間に平凡な交際を避け、猥りに結婚を通ずる様なこともなく、遂にはここに立派な「筋」が成立するのである。かの陰陽筋・神子筋・禰宜筋などと云われて、時としては世間から婚を通ずるを憚られる様な家筋のものの中には、当初はこの類けだし少からぬことであったと察せられる。
 かく云えばとて、しからば後世所謂「物持筋」の人々は、もとみなこれら術道家の子孫であったか、と、そう手軽に早合点して貰ってはならぬ。そこにはまた別に古来或る民族的差別観を以て、世間から見られた或る部族の存在を考えねばならぬ。そしてその根原が一般に忘れられた後になっても、或る地方或る部族に限っては、何らかの事情からその差別観が比較的後の世までも頑強に保持せられ、その理由は何人も知らないながらも、ただ何となく一所になりにくいという系統の、今なお各地に存在することを考えてみねばならぬ。その最も適切なる一例として、同じ憑き物系統と言われる中にも、多少他とは様子の違ったところのある飛騨の牛蒡種を捉え来って、これが民族的研究を施してみたいと思う。

二 飛騨の牛蒡種に関する俗説――牛蒡種と…

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