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おスミの持参金
おスミのじさんきん
作品ID49826
著者三好 十郎
文字遣い新字旧仮名
底本 「三好十郎の仕事 第一巻」 學藝書林
1968(昭和43)年7月1日
初出「シナリオ文学全集四」1937(昭和12)12月
入力者伊藤時也
校正者伊藤時也、及川 雅
公開 / 更新2009-11-21 / 2014-09-21
長さの目安約 49 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


  スミ(花嫁)
  楠一六(花婿)
  鈴村彦之丞(スミの父親)
  信太郎(放火犯容疑者)
  お若(信太郎の恋人)
  土方(流れ者)
  区長
  旅商人(呉服小間物屋)
  刑事
  ユリ(サーカスのダンサー)
  乗合馬車の馭者
  サーカスの楽士達。村人達。
  軽便鉄道の乗客達。乗務員達。
  その他。

音楽  パストラール風に。

○村の誰彼れが昂奮した顔を突合せて、囁き合つてゐる。
 (戸外)
「鈴村の彦之丞がとけえ、電報が来たと?」
「なんだろか? 又大地震があつたんづろか?」
「去年の暮れ、森の喜六がとこの娘が紡績で機械に食はれておつ死んだ時、来たきりぢや。此の村さ電報来んのそれ以来だ」
「なんせロクな事あ無えぞな。電報来るようでは、もうはあ、彦之丞がとこも永え事は無えぞ」
「大水が出たのか? 戦争け?」これは駆け付けて来た男。
「あんだ、あんだ?」
「彦之丞がどうしたと?」とスツトンキヨーな声をあげたのはツンボの爺さん。
「電報が来たとよ!」
「雹が降つたのか? そいつは困つたのう」
「違う、電報じや」
「コロの値が出んのか? それはおいねえ!」
「まだ聞えねえ。電報だつ!」
「デンピだと?」
「電報つ!」
「デンピヨーかつ! ウーン」――爺さんが目をまはしかける。泳ぐ。

○それを追つてパンすると、中景に道路一杯に右往左往してゐる豚の群。
  その群の中に取りかこまれ、歩き悩んでゐる電報配達夫。カメラそれに近づく。

○親豚子豚とりまぜてヒシヒシと動きまはつてゐる。
 ブウブウ、ギイギイ、キユーツと鳴声。
「わーい!」配達夫叫んで、自転車を引きずる様にして、豚の背の波を踏み越え、すべり越えてメチヤメチヤに走り出す。
 しかし豚の群も同方向に向つて歩いてゐるので、なかなか抜け出られない。「助けてくれつ!」

○やつと豚の波の中から飛出す。そこは村はづれ。――一軒の家の表にたどり着く。汗をぬぐひながら、表札を見る。
「鈴村彦之丞」
 しかし表戸はビツシリ締切つてある。開けようとしても開かないので、ドンドン叩く。
「鈴村さん、電報!」
 戸が内からガラツと開けられる。配達夫、はづみを喰つて、転げ込む。戸を開けた十五六歳の少年も、ぶつつけられて転びかける。トタンにいきなり、とんでもない大きな声。
「たかさごやあ……この」(変な謡曲)。

○貧農の家の内部。
 間の襖を取り払つた奥の六畳の室の床の間を背にして坐つた鈴村彦之丞(五十前後)がヤツキとなつてドーマ声をふりしぼつてゐる。ゴリゴリの紋付袴姿。酔つてゐる。その傍にかしこまつてゐる楠一六とスミ。
 三々九度が済んだばかりで、二人ともボーツと上気してゐる。特に花嫁の眼は涙にかすんで、器量一杯に声を振りしぼつてゐる父親の顔がボヤけて見えるのである。
 近所の小母さんが花婿に酌をしてゐる…

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