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私有農場から共産農団へ
しゆうのうじょうからきょうさんのうだんへ
作品ID49856
著者有島 武郎
文字遣い新字旧仮名
底本 「有島武郎全集第九卷」 筑摩書房
1981(昭和56)年4月30日
初出「解放 第五巻第三號(三月號)」1923(大正12)年3月1日
入力者mono
校正者染川隆俊
公開 / 更新2009-09-20 / 2014-09-21
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

A 北海道農場開放に就ての御意見を伺ひたいのですが。殊に、開放されるまでの動機やその方法、今後の処置などに就いてですな。
B 承知しました。
A 少し横道に這入るやうですが、この頃は切りに邸宅開放だとか、農場開放だとか、それも本統の意味での開放でなく、所謂美名に隠れて巨利を貪つてゐるやうな、開放の仕方が流行つてゐるやうですが、いゝ気なものですな。
B 全くですな。土地からの利益が上らなくなつたり、持て余して手放したり、それも単に手放すといふなら兎も角、美名に隠れて利益を得る開放の仕方などは不可ませんね。最近では横須賀侯などが農場を開放されると聞きますが、あれなどは実に怪しからんと思ひますね。農場の小作人に年賦か何かで土地を買はして、それでも未だ不可いからといふので、政府から補助を受けることになつてゐると聞きますが、これなんかは全く何うにかしなければ不可ませんね。
A 実際です。彼等が営利会社か何かと結びついて、社会奉仕などといゝ顔をして利益を得ようといふんですから、第一性根が悪いと思ひます。――ところで……
B ところで、よく分りました。私の場合は、勿論現代の資本主義といふ悪制度が、如何に悪制度であるかを思つたことゝ、直接の動機としては、資本主義制度の下に生活してゐる農民、殊に小作人達の生活を実際に知り得たからです。小作人達の生活が、如何に悲惨なものであるかは分り切つたことですが、先ず具体的に言ひませう。私の狩太村の農場は、戸数が六十八九戸、……約七十戸といふところですが、それが何時まで経つても掘立小屋以上の家にならないで、二年経つても三年経つても、依然として掘立小屋なんですね。北海道の掘立小屋は、それこそ文字通りの掘立小屋で、柱を地面に突き差して、その上を茅屋根にして、床はといへば板を列べた上に筵を敷いただけ、それで家の中へ水が這入つて来ないやうに家の周囲に溝を作へるのです。全戸皆がこんな掘立小屋で、何時まで経つても或ひは藁葺だとか瓦葺だとか、家らしい家にならないし、全く嫌になつて終つたんですな。
A と言ひますと、農民達はそんな家らしい家にして住ふやうな気持を持たないのでせうか。そんな掘立小屋なんかで満足してゐるのでせうか?
B さうぢやないんです。農民達はそんなことに満足してはゐないのですが、家らしい家を建てるまでの運びに行かないのです。一口に言へば、何時まで経つてもその日のことに追はれてゐて、そんな運びに至らないのです。小作料やら、納税やら、肥料代やら、さういつた生活費に追はれてゐて、何時まで経つても水呑百姓から脱することが出来ないのです。――それにあのとほり、一年の半分は雪で駄目だものですからな。冬も働かないわけではないのですが、――それよりも、鉄道線路の雪掻きや、鯡漁の賃銀仕事に行けば、一日に二円も二円五十銭もの賃銭がとれるのですから、百姓仕事を…

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