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作品ID | 49859 |
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原題 | DER HEIZER |
著者 | カフカ フランツ Ⓦ |
翻訳者 | 原田 義人 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「世界文学大系58 カフカ」 筑摩書房 1960(昭和35)年4月10日 |
入力者 | kompass |
校正者 | 青空文庫 |
公開 / 更新 | 2011-01-09 / 2016-02-22 |
長さの目安 | 約 62 ページ(500字/頁で計算) |
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十六歳のカルル・ロスマンは、ある女中に誘惑され、その女とのあいだに子供ができたというので、貧しい両親によってアメリカへやられたのだが、彼がすでに速度を下げた船でニューヨーク港へ入っていったとき、ずっと前から見えていた自由の女神の像が、まるで突然強まった陽の光のなかにあるように見えた。剣をもった女神の腕がまるでつい今振り上げたばかりのようにそびえ、その姿のまわりにはただようような風が吹いていた。
「あんなに高いぞ!」と、彼は自分に言い、まるで船を去ることを考えないような様子で、彼のそばを通り過ぎていく荷物運搬人たちがいよいよ数を増していくのに押されて、だんだんと舷側の手すりまでいってしまった。
航海中に一時的に知合いになった一人の若い男が、通りすがりにいった。
「ほう、まだ降りる気がないのかい?」
「もう準備はすんでいますよ」と、その男に笑いかけながらカルルはいって、自分がたくましい青年なものだから、自慢げにトランクを肩に担いでみせた。しかし、ステッキを少し振りながらもうほかの人びとと去っていくその男のほうを見ていたとき、自分の雨傘を下の船室に忘れてきたことに気づいて驚いた。彼はあまりありがたそうには見えない一人の知人に、ちょっとトランクの番をして下さい、と頼んで、帰りに道をまちがえないようにあたりの様子を見廻してから、急いで立ち去った。下へ降りていって、近道になるはずだった一つの通路がはじめて遮断されているのを発見して、困ったことになったぞ、と思った。この遮断はおそらく船客全員を下船させることと関係があるらしかった。そこで、あとからあとから曲りくねった廊下を通り、書きもの机が一つだけぽつりと置いてある人のいない部屋を一つ通って、つぎつぎにつづく階段を骨折って探していたが、この道はただ一、二度だけ、それもいつも大ぜいの仲間と歩いただけだったので、ほんとうにすっかり道に迷ってしまった。途方にくれてしまい、だれにも会わないし、ただたえず頭の上に千人にも及ぶたくさんの人びとの足音が聞こえ、遠くのほうからすでに停止した機関の最後の音がまるで息のように聞こえてくるだけなので、よく考えてもみないで、うろつき廻ったあげくにいきどまりになった任意の小さなドアをノックし始めた。
「開いているよ」と、なかから叫ぶ声がした。そこでカルルはほんとうにほっと息をつきながらドアを開けた。
「なぜそんなに気がちがったみたいにドアを打つんだね」と、一人の大男が、カルルのほうをほとんど見ないでたずねた。どこかの天窓からは、船の上のほうでとっくに使い古されたような陰気な光がこのみすぼらしい船室へ射しこんでいた。この船室にはベッドと棚と椅子とその大男とが、まるで貯蔵品のようにぴったり並んで立っていた。
「道に迷ってしまったんです」と、カルルはいった。「航海中は全然気がつかなかったけれど、恐ろし…