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流刑地で
るけいちで
作品ID49867
原題IN DER STRAFKOLONIE
著者カフカ フランツ
翻訳者原田 義人
文字遣い新字新仮名
底本 「世界文学大系58 カフカ」 筑摩書房
1960(昭和35)年4月10日
入力者kompass
校正者青空文庫
公開 / 更新2011-01-13 / 2016-02-22
長さの目安約 64 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

「奇妙な装置なのです」と、将校は調査旅行者に向っていって、いくらか驚嘆しているようなまなざしで、自分ではよく知っているはずの装置をながめた。旅行者はただ儀礼から司令官のすすめに従ったらしかった。司令官は、命令不服従と上官侮辱とのために宣告を下された一人の兵士の刑の執行に立ち会うようにとすすめたのだった。この刑執行に対する関心は、流刑地でもたいして大きくはないらしかった。少なくとも木のない山腹に取り囲まれた深くて小さい砂地のこの谷間には、将校と旅行者とのほかには、頭髪も顔の髯ものび放題の、頭の鈍い大口の受刑者と、兵士が一人いるだけだった。その兵士は重い鎖をもっており、それから小さないくつかの鎖が出ていて、それで受刑者の足首や手首や首もしばられていた。またそれらの小さな鎖はつなぎの鎖でつなぎ合わされている。ところで、受刑者は犬のように従順に見えるので、まるで自由に四方の山腹をかけ廻らせておくことができ、執行の直前にただ笛を鳴らしさえすればもどってくるような様子に見受けられた。
 旅行者はそんな装置にはほとんど興味がなく、受刑者の背後でほとんど無関心そうにいったりきたりしていた。一方、将校のほうは最後の準備をととのえているところで、あるいは地中深くにすえつけた装置の下をはったり、あるいは上の部分を調べるために梯子を登ったりしていた。ほんとうは機械係にまかせておけるような仕事だったが、彼がこの装置の特別な讃美者なのであれ、何かほかの理由からこの仕事をほかの者にまかせることができないのであれ、いずれにしてもひどく熱心にその仕事を実行していた。
「これですっかりすんだ!」と、ついに将校は叫んで、梯子を下りてきた。ひどく疲れていて、口を大きく開けて息をしており、二枚の薄い婦人用ハンカチを軍服のカラーのうしろに押しこんでいた。
「そういう軍服では熱帯では重たすぎますね」と、旅行者は将校が予想していたように装置のことをたずねるかわりに、そういった。
「まったくです」と、将校はいって、油脂で汚れた両手を用意されてあるバケツで洗った。
「でも、この軍服は故国を意味するものです。われわれは故国を失いたくありません。――ところで、この装置をごらん下さい」と、彼はすぐに言葉をつけ加え、両手を布でふき、同時に装置をさし示した。「今まではまだ手でやる仕事が必要でしたが、これからは装置がまったくひとりで働きます」
 旅行者はうなずいて、将校のあとにつづいた。将校はどんな突発事故に対しても言いのがれをつけておこうとして、やがていった。
「むろん、いろいろ故障が起こります。きょうは故障は起こらないとは思いますが、ともかくその覚悟だけはしておかなければなりません。この装置は実際、十二時間もぶっつづけに動くんです。でも、たとい故障が起っても、ほんの小さな故障ですむはずです。すぐなおるでしょう」
「お…

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