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松浦あがた
まつらあがた
作品ID4992
著者蒲原 有明
文字遣い新字旧仮名
底本 「ふるさと文学館 第48巻 【佐賀】」 ぎょうせい
1994(平成6)年7月15日
初出「読売新聞」1898(明治31)年6月6日~10日、12日、13日
入力者林幸雄
校正者鈴木厚司
公開 / 更新2005-01-23 / 2014-09-18
長さの目安約 26 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     一

「黄櫨成レ列隴※[#「縢の糸に代えて土」、107-上-4][#「※[#「縢の糸に代えて土」]」は底本では※[#「月+祭」]]間 南望平々是海湾 未レ至二栄城一三五駅 忽従リ二林際[#「際」は底本では「※[#「縢の糸に代えて土」]」]一得タリ二温山ヲ一。」
 とはこれ頼山陽が「見温仙岳」の絶句――この詩を誦し去りて、われらは先づ肥前の国に入る。「温泉はちまき、多良頭巾」といふこと、これをその国のある地方にて聴く、専ら雲の状を示せるもの、おもしろき俚諺ならずや。温泉岳と、多良岳と、かれに焦熱の地獄あれば、これに慈悲の精舎あり、これに石楠花の薫り妙なれば、かれに瓔珞躑躅の色もゆるがごとし、一は清秀、他は雄偉、ともに肥前の名山たることはしばしば世に紹介せられたりし、かつ題目の制限を超ゆるあたはざれば、これより直に、北のかた、松浦あがたの空を望まむかな。
 南、島原半島の筑紫富士(温泉岳)と遥にあひたいし、小城と東松浦との郡界の上に聳え、有明海沿岸の平野を圧するものを天山――また、あめやまともいふ――となす。この山ことに高しとにはあらざれども、最はやく雪を戴くをもて名あり。蓋しその絶巓は玄海洋をあほり来る大陸の寒風の衝くに当ればなり。
 更に転じて西松浦の郡界に到れば、黒髪山の擅に奇趣を弄ぶあり、巉巌むらがり立てるはこれ正に小耶馬渓。いにしへ大蛇あり、その箏のごとき巌に纏ふこと七巻半、鱗甲風に揺き、朱を濺げる眼は天を睨む、時に鎮西八郎射てこれを殪し、その脊骨数箇を馬に駄す、その馬重きに堪へず、嘶いて進まざりしところ、今に駒鳴峠の名を留めたり。
 黒髪山の近くに源を発するもの、有田川あり、伊万里川あり、松浦川あり、その流域は「松浦あがた」のうち最主要なる部に属す。有田川は西南に流れて皿山を過ぐ。ここははやくより、磁器の製造をもて、その名世に布く。いはゆる有田焼の名産を出すところなり。維新の前、藩侯の通輦あるや、毎に磁土を途に布きて、その上に五彩を施せしといふ、また以て、窯業の盛なるを想ふに足るべし。
 次に伊万里川は北に流れ、大河内の近くを過ぎ、伊万里町を貫き、有田川の末とおなじく、牧島湾に注ぐ。大川内は「御用焼」もて知られしところ、今はたゞ蕭条たる一部落の煙を剰すに過ぎず。伊万里町は殷賑なること昔時に及ばずといふ。ここより盛に陶磁器を輸出せし時代やいかなりけむ。ロングフェロオが「ケラモス」と題したる詩のうちに、世界の窯業地としてその名をかずまへ、うるはしき詞もて形容せる数行の句は聊か現今の衰勢を慰むるに足りなむか。町の一端に岩栗神社あり、孝元天皇第四の皇子を奉祀す。天平のむかし藤原広嗣一万余騎の兵を嘯集し、朝命に乖き、筑前、板櫃川に拠る、後やぶれて、松浦郡なる値嘉島に捕へらる。時の副将車、紀飯麻呂この地に到り、祭壇を設けて紀氏の祖を祀りしに創れりと伝ふ…

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