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琴
こと |
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作品ID | 49927 |
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著者 | マクラウド フィオナ Ⓦ |
翻訳者 | 松村 みね子 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「かなしき女王 ケルト幻想作品集」 ちくま文庫、筑摩書房 2005(平成17)年11月10日 |
入力者 | 門田裕志 |
校正者 | 匿名 |
公開 / 更新 | 2012-09-06 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 23 ページ(500字/頁で計算) |
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コノール・マック・ネサの子コルマック、アイルランドの北の方ではコルマック・コンリナスという名で知られていたコルマックがアルトニヤ人の誓いのしるしの十人の人質の一人としてコネリイ・モルの許にあった時、彼はその力のため勇気のため又うつくしさのため男おんなに愛されていた。
彼は余の九人の仲間の最も丈たかい者よりも一寸ほど背が高かった、最も胸幅のひろいものよりなお二寸も胸がひろかった。その九人の人たちも、国を愛する詩人たちによって「緑なるバンバ」と呼ばれていたアイルランドじゅうに比類なき勇士であったアルトニヤ人の、又その中での最も丈たかく胸ひろき人たちなのであった。
民衆は彼のすぐれた槍の手、巧みな太刀ぶり、彼の怒りの恐しさ、彼が戦いを愛する愛の烈しさ、彼の笑いと軽いよろこび、又その剣が黙したときに彼の口にうたわれた唄などについて評している。コルマック・コンリナスが「青緑」と呼んでいた剣――その仲間の中には「囁く剣」と名付けられていた――その剣に手を触れ得るものは一人もなかった。その剣を振る時、とぶ稲妻の如く剣が青くみどりに輝いた故に、それは「青緑」であった、その剣は渇いた時に何時もささやいた、その渇きを静め得るのは赤い血の飲みものばかりであった。アルトニヤ人を恐れ憎んだ人々のなかに赤い血の沸騰した時には、その剣がいつも囁いた、コノール・マック・ネサの子コルマックの影のあとを追う影がある時、その剣は何時も囁いた。故にコルマックの死を望んでいる人々の中でも、かの虹のうす靄のなかに坐して永遠に仕事している神鍛冶レンの作ったその剣の不思議な囁きを恐れないものはなかった。
女たちはコルマックの強さを彼等自身の美を誇り合うように誇り合った。コルマックは太陽の光のような様子をしていると彼等は言った、そして太陽の火のような、と息の下につぶやく一人の女があった。それはコン・マック・アルトとダルウラのむすめエイリイであった、ダルウラは群島の王ソミイルの女であった――モルナの女ダルウラの女エイリイ、三代うちつづく三人のすぐれて美しい女たちの中の一人であった。
美しいエイリイはアルトニヤ人ではなく、コネリイ・モルの治めている国の生れであった、コネリイ・モルの許に十人の人質がいた時、エイリイは恋の病いに弱りおとろえてしまった。母なるダルウラはその男が誰であるかを知っていた。母はみがいた鋼の鏡を眠っている娘の口の上にあてて見た、愛の炎が赤い心を焼いて、その心の上に白熱に書かれた文字は――我はコノールの子コルマックの心――とあった。母の心はよろこび、また恐れた。まことに、コルマック・コンリナスよりすぐれた勇士はこの世にいなかった、しかしコルマックはアルトニヤ人で、もう直きにこの土地を去るべき人であった、又、エイリイの父コンの死後その保護者となっていたコネリイ・モルは美しいエイリイが自…