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自力更生より自然力更生へ
じりきこうせいよりしぜんりきこうせいへ
作品ID50020
著者三沢 勝衛
文字遣い新字新仮名
底本 「三澤勝衛著作集3 風土論(二)」 みすず書房
1979(昭和54)年6月25日
入力者田中敬三
校正者小林繁雄
公開 / 更新2009-09-19 / 2014-09-21
長さの目安約 52 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

        はじめに

 次の小文は、昭和十一年の春、長野県砂防協会の第三回総会に招かれたその席上での小講演要項である。会合された方々、すなわち聴講者の内容は県庁内のその方面の方々を初め、実際各地の崩壊地において直接その方面の事業に携わって苦労されておられる技術家の方々、および直接その崩壊被害のために年々苦難されておられる長野県各地の市町村長および助役といったような方々で三〇〇余名の会合であった。
 会合の場所が木曾福島町であり、翌日はその木曾地方の崩壊地およびその砂防工事の見学ということが予定されておった。
 したがって講演の資料を努めて信州各地の実例にとり、しかも木曾地方の資料をやや過分に取入れることに考慮した。しかし講演の本旨は、とにかくそういった崩壊、すなわち被害に直面し、どちらかといえば、その自然の偉力に対し常に対抗するかの境遇に立っておられる方々の集りであるから、ともすれば「自然征服」といったような考えと意気とを持って向われておられる方々がないとは断じ難い。あるいはそういった考えを明瞭に意識されておらないまでも、いつとはなしに、それが頭のどこかに入っているという心配は十分にある。
 もちろん、山野の崩壊の中には、その原因として、(1) 濫伐とか開墾とか、あるいは無理な道路の開鑿とかいった人工的のものと、(2) そこの地盤の隆起沈降といった自然的のものとの二つがある。多くの場合、この両者の共同といったような場合が一番多いかも知れない。したがってその自然的原因に対しては、とうていわれら人力の勝手にはならない。いっそうのこと、逆にその崩壊を善用するという態度に出るのが当然である。いずれにしても「自然力征服」という考えは完全に拭い去ることが必要である。与えられた時間がわずか一時間半という短時間ではあり、とうてい十分の成果を挙げることはできないとしても、その点に主眼をおいた。
 もちろん、われわれ地理教育者の大きな、しかも、直接の使命は「風土性に対する正しい認識と理解」の向上普及にあることは言うまでもないが、その風土性というものが、すでにそれが大自然の一部、一要素なのであるから、その風土性に対する徹底した認識や理解を得るためには、さらに遡って、一般人士の大自然に対する正しい認識と理解とが重要視されるわけでもあるし、また考えようによっては、地理的教育直接の目標である風土性の認識・理解も、やがては大自然そのものの認識・理解への一課程と見るべきものでもある。したがって、本講演では、直接地理学そのものを表面に振りかざしてはおらないが、もちろんその話がいかに粗末なものであったとしても、私の講演であるから、実は地理教育直接の目的を片時も忘れておったわけではなかった。が、とにかくこの際は、聴講者のすべてが、皆それぞれの指導的位置に立っておられる方々であったから、その…

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