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足柄の山水
あしがらのさんすい
著者大町 桂月
文字遣い旧字旧仮名
底本 「桂月全集 第二卷 紀行一」 興文社内桂月全集刊行會
1922(大正11)年7月9日
入力者H.YAM
校正者雪森
公開 / 更新2020-06-10 / 2020-05-27
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

一 自稱判者

足柄山へとて、天野長川をつれて、新橋より汽車にのりけるが、何十度となく通過せる路なれば、送る水、迎ふる山、最早めづらしくも無し。地圖をひろげて見入りけるに、長川も同じく地圖をひろぐ。その地圖の裏面に細字にて書きならべたるを、何かと手に取りて見れば、足柄山に關する古歌をかき集めたる也。試みに歌合にして見むとて、嗚呼がましくも、自稱判者となる。
右 勝
大江廣房
行末も跡もさながら埋もれて
  雲をぞわくる足柄の山

加藤千蔭
旅人の朝ゆく駒のひづめより
  雲たちのぼる足柄の山
左は、さまで旅行の趣味を解せざる人が細工したる歌也。駒の蹄をもち出して、却つて匠氣を見る。右は自然にして大也。幽寂の趣、掬すべし。讀み去つて、おのづから雲中にあるの心地す。

藤原行朝
富士の根を山より上に顧みて
  今こえかゝる足柄の山
左 勝
祝部成茂
足柄の山路の月に峯越えて
  明くれば袖に霜ぞのこれる
右は、東海道中數日相親みし富士に別れて、足柄峠を下らむとする情景、げにさもあるべけれど、左の、霜に明月の名殘をとゞめたるが、すが/\しく感ぜらるゝ也。
右 勝
卜部兼直
しぐれつる雲を外山にわけすてて
  雪に越えゆく足柄の關

前中納言爲相女
足柄の山のあらしの跡とめて
  花の雪ふむ竹の下道
花を踏むも、雪を踏むも、風情にさばかりの優劣はなけれど、嵐のあとをさぐるよりは、時雨の雲をわけつる方が、細工の痕なくて、自然の詩趣を得たり。

後鳥羽院
葉をしげみ洩る隙もなし秋の夜の
  月おぼろなる足柄の山
左 勝
法印慶運
足柄の山たちかくす霧の上に
  ひとりはれたる富士の白雪
秋月のおぼろに、文字の面白味を寓せるつもりなるべけれど、さばかりの詩趣はあらず。われは、霧の上に霽れたる富士の白雪を眺めむ。
右 持
藤原光俊
秋までは富士の高根に見し雪を
  わけてぞ越ゆる足柄の關

從二位頼重
旅衣しぐれてとまる夕暮に
  なほ雲こゆる足柄の山
いづれも、小細工と小理窟とよりこねあげたる駄作也。似たりよつたりの愚作也。なほ十數首ありたれど、さまではとて、地圖を長川に返しぬ。

二 洒水瀧

山北驛に下る。これより山ふかく入ることなればとて、未だ停車場を出でざるに、早くこゝの名物の鮎鮨を買ひて、洒水瀑さしてゆく。このあたりに有名なる瀑にて、誰れ知らぬ者も無し。瀑よりも、先づ物食ふ家をとて、人に問へば、途中に、さつぱりしたる家ありといふ。皆瀬川をわたれば、果して、さつぱりしたる旅店あり。就いて、酒を呼び、肉を呼ぶ。鮎鮨を作れるさま也。さきに買ひたる鮨の箱を見すれば、『それは、こちらでつくりて、今朝ほど持たしてやりたるなり』といふ。知らぬ事とて、間の拔けた事をしたるもの哉。老婦、年、六十に餘りて、髮みな白し。『山北の鮎鮨は、私が賣り出したるに、皆樣のお蔭にて、山…

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