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詩好の王様と棒縛の旅人
しずきのおうさまとぼうしばりのたびびと
作品ID50086
著者三遊亭 円朝
文字遣い新字旧仮名
底本 「明治の文学 第3巻 三遊亭円朝」 筑摩書房
2001(平成13)年8月25日
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2009-07-22 / 2014-09-21
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 昔時シヽリーといふ島のダイオインシアスといふ国王がございました。此の王が好んで詩を作りますが、俗にいふ下手の横好きで、一向上手でございません。けれども自分では大層上手なつもりで、自慢をして家来に見せますると、国王のいふ事だから、家来が決して背きませんで、「どうも誠に斯様な御名作は出来ませんもので、実に御名作で、天下に斯様なお作は沢山にございますまい。などゝいふから、益々国王は得意になられまして、天下広しと雖ども、乃公ほどの名人はあるまい、と思つてお在になりました。処が或時の事でシヽリーの内で、第一番の学者といふ、シロクシナスといふお精霊様の茄子のやうな人が参りまして、王にお目通りを願ひますると、早速王は御自分の作つた詩を見せたいと思召したから、王「これ、シロクシナス、是はな、予の近作で、一詩作つたから見て呉れろ。シ「はゝツ。国王の作つた詩といふから、結構な物だらうと存じて、手に取り上げますると、王「どうぢやな、自製であるが、巧いか拙いか、遠慮なしに申せ。シ「はゝツ。とよくよく目を注けて見ると、詩などは円朝は解りませんが、韻をふむとか、平仄が合ふとかいひますが、全で違つて居りまして詩にも何にもなつて居りません。シロクシナスは正直の人だから、シ「へえ、お言葉ではございますが、拙い巧いと申すは二の段にいたしまして、是は第一に詩といふものになつて居りません、御承知の通り、詩と申しまするものは、必らず韻をふまなければならず、又平仄が合ひませんければなりません、どうも斯様なものを詩だといつてお持ち遊ばすと、上の御恥辱に相成ります事ゆゑに、是はお留まり遊ばした方が宜しうございませう。と申上げると、国王真赤になつて怒り、王「是は怪しからん、無礼至極の奴だ、何と心得て居る、是ほどの名作の詩を、詩になつて居らんとは案外の何うも失敬な事を申す奴だ、其分には捨置かん、入牢申附ける。さアどうも入牢仰せ附けられて見ると、仕方がないから謹しんで牢舎の住居をいたして居りますと、王もお考へになつて、アヽ気の毒な事をいたした、さしたる罪はない、一時の怒りに任して、シロクシナスを牢舎に入れたのは、我が誤り、第一国内で一等の学者といふ立派の人物を押込めて置くといふは悪かつた、とお心附きになりましたから、早速シロクシナスを許して、御陪食を仰せ付けになりました。王の前に出まして、シ「図らず放免を仰せ付られ、身に取りまして大慶至極、誠に先頃は御無礼の段々御立腹の御様子で。王「イヤ先日は癇が起つて居つた処へ、其方が逆らつたものだから、詰らん事を申して気の毒に心得、出牢をさした、其方が入牢中に一詩作つたから見て呉れ。シ「はゝツ。シロクシナス番兵を見返りまして、王の詩を手に取り上げ、シ「御急作でございますか。王「左様ぢや。シ「へーツ。と見て居る内に、渋い苦いやうな顔をして、シ「番兵殿、手前をもう一度牢へお連…

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