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心眼
しんがん
作品ID50090
著者三遊亭 円朝
文字遣い新字旧仮名
底本 「明治の文学 第3巻 三遊亭円朝」 筑摩書房
2001(平成13)年8月25日
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2009-09-18 / 2014-09-21
長さの目安約 17 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 さてこれは外題を心眼と申す心の眼といふお話でござりますが、物の色を眼で見ましても、只赤のでは紅梅か木瓜の花か薔薇か牡丹か分りませんが、ハヽア早咲の牡丹であるなと心で受けませんと、五色も見分が付きませんから、心眼と外題を致しましたが、大坂町に梅喜と申す針医がございましたが、療治の方は極下手で、病人に針を打ちますと、それがためお腹が痛くなつたり、頭痛の所へ打ちますと却て天窓が痛んだり致しますので、あまり療治を頼む者はありません。すると横浜の懇意な人が親切に横浜へ出稼ぎに来るが宜い、然うやつてゐては何時までも貧乏してゐる事では成らん、浜はまた贔屓強い処だからと云つてくれましたので、当人も参る気になりましたが、横浜へ参るには手曳がないからと自分の弟の松之助といふ者を連れまして横浜へまゐりまして、野毛の宅へ厄介になつて居り、せめて半年か今年一年位稼いで帰つて来るだらうと、女房も待つて居りますと、直に三日目に帰つてまゐりました。鼻の尖頭へ汗をかき、天窓からポツポと煙を出し、門口へ突立つたなり物も云ひません。女房「おやお前お帰りか。梅「い……今帰つたよ。女房「おや何うしたんだね、まア何うも余り早いぢやアないか、浜へ往つて直ぐに帰つて来たの。梅「直ぐにたツて居られねえもの、どうも幾許居たくつても居られません、あまり馬鹿馬鹿しくつて口惜しいたツて口惜しくねえたツて耐らないもの……。と鼻息荒く思ふやうに口もきけん様子。女房「何うしたんだねえ、まア何だね。梅「何うしたつて、フン/\あの松ン畜生め……。女房「松さんが何うしたんだえ。梅「彼奴が、己を置去りにして先へ帰りやアがつたが、岩田屋さんは親切だから此方へ来な、浜は贔屓強えから何でも来ねえと仰しやるので、他に手曳がねえから松を連れていくと、六畳の座敷を借切つてゐると、火鉢はここへ置くよ、烟草盆も置くよ、土瓶も貸してやる、水指もこゝに有るは、手水場へは此処から往くんだ、こゝへ布巾も掛けて置くよ、この戸棚に夜具蒲団もあるよと何から何まで残らず貸して下すつてよ、往つた当座だから療治はないや、退屈だらうと思つて岩田屋の御夫婦が来て、四方山の話をして居ると、松が傍で土瓶をひつくりかへして灰神楽を上げたから、気を附けろ、粗忽をするなつて他人さまの前だから小言も云はうぢやアねえか、すると彼奴が己にむかツ腹ア立つて、よく小言をいふ、兄振つたことを云ふな、己が手を曳いてやらなけりやア何処へも往かれめえ、御飯の世話から手水場へ往くまで己が附いてツてやるんだ、月給を取るんぢやアなし、何んぞと云ふと小言を云やアがる、兄もねえもんだ、兄(狸)の腹鼓が聞いて呆れると吐しやアがるから、やい此ン畜生、手前は懶惰者でべん/\と遊んでゐるから、何処へ奉公に遣つたつて置いてくれる者もないから、己が養つて置くからには、己の手を曳くぐらゐは当然だ、何を云やアがるつて立…

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