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源氏物語
げんじものがたり
作品ID5021
副題06 末摘花
06 すえつむはな
著者紫式部
翻訳者与謝野 晶子
文字遣い新字新仮名
底本 「全訳源氏物語 上巻」 角川文庫、角川書店
1971(昭和46)年8月10日改版
入力者上田英代
校正者門田裕志
公開 / 更新2003-07-19 / 2014-09-17
長さの目安約 39 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

皮ごろも上に着たれば我妹子は聞くこ
とのみな身に沁まぬらし  (晶子)

 源氏の君の夕顔を失った悲しみは、月がたち年が変わっても忘れることができなかった。左大臣家にいる夫人も、六条の貴女も強い思い上がりと源氏の他の愛人を寛大に許すことのできない気むずかしさがあって、扱いにくいことによっても、源氏はあの気楽な自由な気持ちを与えてくれた恋人ばかりが追慕されるのである。どうかしてたいそうな身分のない女で、可憐で、そして世間的にあまり恥ずかしくもないような恋人を見つけたいと懲りもせずに思っている。少しよいらしく言われる女にはすぐに源氏の好奇心は向く。さて接近して行こうと思うのにはまず短い手紙などを送るが、もうそれだけで女のほうからは好意を表してくる。冷淡な態度を取りうる者はあまりなさそうなのに源氏はかえって失望を覚えた。ある場合条件どおりなのがあっても、それは頭に欠陥のあるのとか、理智一方の女であって、源氏に対して一度は思い上がった態度に出ても、あまりにわが身知らずのようであるとか思い返してはつまらぬ男と結婚をしてしまったりするのもあったりして、話をかけたままになっている向きも多かった。空蝉が何かのおりおりに思い出されて敬服するに似た気持ちもおこるのであった。軒端の荻へは今も時々手紙が送られることと思われる。灯影に見た顔のきれいであったことを思い出しては情人としておいてよい気が源氏にするのである。源氏の君は一度でも関係を作った女を忘れて捨ててしまうようなことはなかった。
 左衛門の乳母といって、源氏からは大弐の乳母の次にいたわられていた女の、一人娘は大輔の命婦といって御所勤めをしていた。王氏の兵部大輔である人が父であった。多情な若い女であったが、源氏も宮中の宿直所では女房のようにして使っていた。左衛門の乳母は今は筑前守と結婚していて、九州へ行ってしまったので、父である兵部大輔の家を実家として女官を勤めているのである。常陸の太守であった親王(兵部大輔はその息である)が年をおとりになってからお持ちになった姫君が孤児になって残っていることを何かのついでに命婦が源氏へ話した。気の毒な気がして源氏は詳しくその人のことを尋ねた。
「どんな性質でいらっしゃるとか御容貌のこととか、私はよく知らないのでございます。内気なおとなしい方ですから、時々は几帳越しくらいのことでお話をいたします。琴がいちばんお友だちらしゅうございます」
「それはいいことだよ。琴と詩と酒を三つの友というのだよ。酒だけはお嬢さんの友だちにはいけないがね」
 こんな冗談を源氏は言ったあとで、
「私にその女王さんの琴の音を聞かせないか。常陸の宮さんは、そうした音楽などのよくできた方らしいから、平凡な芸ではなかろうと思われる」
 と言った。
「そんなふうに思召してお聞きになります価値がございますか、どうか」
「思わせ…

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