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革命の研究
かくめいのけんきゅう |
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作品ID | 50263 |
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著者 | クロポトキン ピョートル・アレクセーヴィチ Ⓦ |
翻訳者 | 大杉 栄 Ⓦ |
文字遣い | 旧字旧仮名 |
底本 |
「革命の研究」 コスモス書店 1946(昭和21)年4月20日 |
入力者 | クロポトキン・プロジェクト |
校正者 | 浜坂邦彦 |
公開 / 更新 | 2014-08-07 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 31 ページ(500字/頁で計算) |
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一
革命といふ言葉は、今では、被壓制者の唇にも、また所有者の唇にすらも、屡々上る。既にもう、時々、近い將來の變動の最初の顫えが感ぜられる。そして、大なる變動や變化の近づいて來る時にはいつもさうであるが、現制度の不平者は――その不平がどんなに小さくてもいゝ――嘗ては實に危險であつた革命家といふ肩書を爭つて自分につける。彼等は現制度を見限つて、何等かの新制度を試みようとする。それで彼等には十分なのだ。
あらゆる色合の不平家の群が、かうして活動家の列の中に流れこむことは、勿論革命的形勢の力を創り、革命を不可避にする。多少でもいはゆる輿論に支持されてゐれば、宮殿や議會の中でのちよつとした陰謀でも政權を變へ、また時としては政府の形式をすらも變へることが出來る。
しかし革命は、それが經濟組織にもある變化を及ぼさうといふには、多數の意思の協力が要る。幾百萬の人の多少活溌な支持と協力とがなければ、革命は到底不可能である。到る所に、どこの村にも、過去の取壞しに從事する人がゐなければ駄目だ。そして他の幾百萬の人は何かもつといゝことが起るといふ望みの下に默つてやらしてゐなければ駄目だ。
大きな事變の前夜に起つて來る、ぼんやりした、曖昧な、そして多くは無意識的なこの不平があり、現制度に對する不信用があつて、それで始めて本當の革命家が廣大無邊の勤め、即ち幾世紀かの存在によつて神聖なものとされて來た諸制度を數年間にもつくりかへる勤めを成就することが出來るのである。
しかし又、これが多くの革命が、その上に乘り上げて、そして倒れた暗礁なのである。
革命が來て日常生活のきまつた順序がひつくりかへされた時。一切の善惡の情熱が自由に爆發して眞畫間にさらけ出された時。失神のそばに非常な熱誠を見、臆病のそばに勇敢を見、つまらぬ反感や個人的陰謀のそばに非常な自己犧牲を見る時。過去の諸制度が倒れて、新しい制度が相續く變化の中にぼんやりと描き出された時。その時に、さきに自ら革命家と名のつたものの大多數は、秩序の守護者の列の中に急いで走つて行く。
街の騷ぎや、試みられる諸制度の不安定や、明日の不安やは、もう彼等を疲らせたのだ。彼等は、一方に既に成就された些細な變化が暴風の中に滅んでしまふのを恐れる。そしてまた彼等は、經濟制度のごく小さな變化も、既にその社會の一切の政治的概念の深い變化を必要とし、そしてごく小さな政治上の變革も、經濟界でのもつと大きな變化を經なければ行はれない、といふことが分らない。
そして彼等は、反革命の來るのを見て、急いでそれと一致しようとする。民衆の情熱や、また時としては無遠慮なその表現は、彼等に厭がられる。やがて彼等はもう革命にあきる。そして休息や緩和を促すものの中に走つて行く。
過去がその最も熱心な守護者を集めるのは彼等の間である。彼等はその過去の一部分、勿論そ…