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古本評判記
ふるほんひょうばんき
作品ID50277
著者永井 荷風
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本の名随筆 別巻12 古書」 作品社
1992(平成4)年2月25日
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2010-01-12 / 2014-09-21
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

一、そも/\都下の古本屋に二種ありなぞと事々しく説明するまでもなし。其の店先に立てば一目直に瞭然たり。一は活字本当世新刊和洋の書籍雑著を主として和本唐本を置かず、他は和本唐本を主となし活版本は僅に古書の翻刻物を売買す。
一、後者は東京書林組合と云ふものを設け行事世話人を選び春秋折々両国美術倶楽部にて古書珍本現金即売展覧会を開く事已に年あり。本年より何故にや両国はやめにして会場を神田明神開花楼に移したり。
一、即売展覧会は皆正札附きにて店売りよりは一割方高し。然し一目に幾万巻の古書を眺め渡して同じ本にても板のよきもの悪しきものいろ/\と見較べる便利ありて買手には甚重宝なり。東京書林組合は又毎月二日と十日に神田御成街道の貸席青柳の二階に市を開き御とくいのお客様先生方の御閲覧を請ふ。然しこゝは正札付きにはあらずセリ売なれば初心の人には適せず。
一、東京中大抵の和本屋は書林組合に入り居れど中には一二軒入らぬもあり。書林組合に入りて即売展覧会に出品すれば正札つきにて法外の利益を得る事かたし。芝日陰町の村幸は書林組合に入らず。
一、同じ古本屋にても唐本和本漢籍雑書詩歌俳諧各其の向々あり。唐本漢籍詩集の類は神田猿楽町の村口、日本橋通壱丁目の嵩山堂、麹町三丁目の磯部、下谷池の端の琳琅閣、本郷の文求堂なぞ専門なり。村口と文求堂は新しき店にて近頃大分大きく致したり。磯部と琳琅閣は小石川伝通院前の青山堂と並びて人の知りたる老舗なり。(青山堂は今はなし。)
一、俳書浄瑠璃本黄表紙洒落本なぞに明きは下谷御徒町の吉田なるべし。主人咄しずきにて客をそらさず、鑑識なか/\高し。東五軒町の文林堂も人の知る処こゝには扇面短冊の面白きもの多く蓄へたり。この店の品他に比して価いつも高からず勉強と云ふべし。主人能筆の聞え高く蜀山人の筆致殆ど其の真偽を弁ぜざる程なりといふ。
一、文林堂の筋向に竹田といふ店あり主人気軽にて親切なれば一寸見当らぬ品物なぞ注文するには誠によし。
一、古書と云へば何に限らず品物一渡り揃へ持ちたるは、何と云つても浅草広小路の浅倉なり。次は神田小川町の松山堂なるべし。浅倉の主人は見た処より有徳の大商人らしく物云ひ年輩共に信用するに足る。和漢書籍の事につきて質問すればなまなかの学者の言ふ事よりも間違なく若輩の我等学ぶ処多し。但し浅倉の本は他の店より二割方高し。高いだけに品物はたしかなりと云ふ咄なり。
一、近来古書の珍しきもの大抵好事家の手に入りて出でず。古本屋は品物払底にてたま/\少しめづらしきものを得れば驚くばかりの値段をつける。然しそれにても忽ち売れてしまふ故相場は日に日に上るばかりなり。
一、維新前の和本のみならず近頃は明治三十年頃までの活版本翻刻本も追々高くなり出したり。丸善出版の近松浄瑠璃西鶴浮世草紙の類又は温知叢書百万塔の如き叢書類、雑誌にては江戸会誌、旧幕府、歌舞伎新…

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