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鬼桃太郎
おにももたろう
作品ID50355
著者尾崎 紅葉
文字遣い旧字旧仮名
底本 「名著複刻 日本児童文学館 第一集」 ほるぷ出版
1976(昭和51)年5月
初出「鬼桃太郎」幼年文學叢書、博文館、1891(明治24)年10月11日
入力者田中哲郎
校正者みきた
公開 / 更新2019-01-10 / 2018-12-24
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#挿絵]
[#挿絵]

むかし/\翁は山へ柴刈に、
媼は洗濯の河にて、拾
ひし桃實の裏より
生れ出でたる桃太郎、
猿雉子犬を引率して
この鬼个島に攻來り、
累世の珍寳を分
捕なし、勝矜らせて
還せし事、この島末
代までの耻辱なり、
[#挿絵]
あはれ願はくは武勇
勝れたる鬼のあれかし
其力を藉てなりともこの
遺恨霽さばやと、時の王鬼
島中に觸を下し、誰にても
あれ日本を征伐し、桃太郎奴が
若衆首と、分捕られたる珍寳
を携へ還らむものは、此島の
王となすべしとありければ、血氣に逸る
若鬼輩、ひこ/\と額の角を蠢かし、
我功名せむと想はざるはな
けれども、いづれも桃太郎
が技※[#「てへん+兩」、U+639A、2-15]に懲り、我はと名乘出
づるものもあらざりけり、
[#挿絵]
茲に阿修羅河の畔に
世を忍びて、侘しく住
みなせる夫婦の鬼あり
けり、
もとは鬼个
島の城門の
衞司にてあ
りけるが、桃
太郎攻入の
砌敢なくも
鐵の門扉を打摧かれ、敵軍
乱入に及びし條、其身の懈怠に因るものなり
とて、斜ならず王鬼の勘氣を蒙り、官を剥がれ世に疎れ、
今は漁人となつて餘命を送るといへども、何日は身の罪を償うて再び
世に出でむことを念懸け、
子鬼


の束の間も
忘るゝ間ぞなかりける、さる
[#挿絵]
ほどに此觸を聞く嬉しさ、茨木
童子が斷落されし我片腕をも見た
らむ心地して、此時なりと心ばかりは
逸れども、嚮に城門の
敗戰に桃太郎と亘合
はせ、五十貫目の鐵棒もて、
右の角を根元より摧折れた
る創の今に疼むこと頻りにして、
不治の疾を得たりければ、合戰な
むど思ひも寄らず、かゝる時子だ
にあらばと頻りに妻なる鬼を罵りぬ、
されば妻の言ひけるは、傳聞く日本の
桃太郎は、河に流れし桃より生れて武
勇拔群の小兒なり、尋常なる鬼胎より出で
なむ鬼兒にては、彼奴が敵手とならむこと
覺束なし、妾夜叉神に一命を奉げて、桃太郎
二倍なる武勇の子を祷るべしと、阿修羅河
の岸なる夜叉神社に參籠し、三七日の夜に
して始めて靈夢を蒙り、その拂曉水際に立
出でゝ見れば、いと
大きなる苦桃一
顆浮波々々と浮來りぬ、扨はと嬉しく
抱還れば、待構へたる夫の喜悦たと
ふる方なし、
[#挿絵]
割きて見れば果せるかな、核お
のづから飛で坐上に躍ると見
えしが、忽焉其長一丈五
尺の青鬼と變じ、紅皿の
ごとき口を開き、爛々た
る火※[#「炎+稻のつくり」、5-6]を吐て矗と立た
る其風情、鬼の眼にさへ
恐ろしくも、また物凄くぞ見えたりける、
苦桃の裏より生まれたればとて苦桃太郎
と名乘らせぬ、扨夫婦所志よしを語りけれ
ば苦桃大いに喜び、易き事かな、我一跨に日本へ推渡り、三指にて桃太が
そつ首引拔き、其國の珍寳の有らむ限り引攫うて還るべし、
[#挿絵]
これより出陣/\と勇み立てば、夫婦
のいふやう、此條王鬼…

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