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煩悶
はんもん
作品ID50395
著者正岡 子規
文字遣い新字新仮名
底本 「飯待つ間」 岩波文庫、岩波書店
1985(昭和60)年3月18日
入力者ゆうき
校正者noriko saito
公開 / 更新2010-06-26 / 2014-09-21
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

  時は午後八時頃、体温は卅八度五分位、腹も背も臀も皆痛む、
 アッ苦しいナ、痛いナ、アーアー人を馬鹿にして居るじゃないか、馬鹿、畜生、アッ痛、アッ痛、痛イ痛イ、寝返りしても痛いどころか、じっとして居ても痛いや。
 アーアーいやになってしまう。もうだめかな。もういかんや。ほんとうに人を馬鹿にしとる。いやになっちまうな。いやになりんすだ。いやだいやだも………だっていやがらア。衣、骭に――到り――か、天下の英雄は眼中にあり――か。人を馬鹿にしてるな。そりゃ、聞えません伝兵エサンと来るじゃないか。三吉一つ歌って見や。アイアイ。そんな事じゃなかったよ。坂、坂は照る照る鈴、鈴鹿は曇る、あいのあいの土山雨がふる、ヨーヨーと来るだろう。向うの山へ千松がと来るだろう。そんなのはないよ。五十四郡の思案の臍と来るよ。思案の臍とはどんな臍だろう。コイツは可笑しい、ハハハハハ痛い痛い痛い横腹の痛みをしゃくッて馬鹿に痛いよ。しかし思案の臍という臍が五十四郡に一ぱい並んで居ると思うと馬鹿に可笑しい。しかもその臍の上に一つずつ土瓶が掛けてあってそれが皆茶をわかして居ると思うといよいよ可笑しい。臍があってその上に蜘がぶら下って居るというのは分るかい。へそくも今夜は来るであろサ。おそくも今夜はのしゃれだよ。そんな奴ならいくらもあるよ。笊の中に子供を入れたので、ざる餓鬼やざる柿サ。閻魔様が舌を出してその上に石を載せてる処はどうだ。閻魔舌の力持サ。古いネ。お話が古くなっていけないというので墨水師匠などはなるたけ新しい処を伺うような訳ですが手前の処はやはりお古い処で御勘弁を願いますような訳で、たのしみはうしろに柱前に酒左右に女ふところに金とか申しましてどうしてもねえさんのお酌でめしあがらないとうまくないという事で、私などの汁粉党には一向分りませんが、ゲーッアー愉快愉快。一歩は高く一歩は低くと来らア。何でも家がぐらぐらして地面が波打って居やがらア。ゲー酒は百薬の長、憂の玉箒、ナンテ来らア。これでも妻君が内に待ってるだろうッちゅうので折詰を持って帰るなどは大ていな事じゃないよ。嚊大明神尤少々焼いて見るなぞは有難いな。女房の焼くほど亭主持てもせず、ハハハハハ。これでも今夜帰ると、ゲー、嚊大明神きっと焼くよ。あなた今夜どこで飲みましたよ、位いうだろう。どこで飲んだ、どこで飲んだもねえものだ、おれが飲む処は新橋か柳橋、二重橋から和田倉橋、オットそいつはからくりだよ、何、今夜はね柳橋でね小紫をあいかたで飲みましたよ。オヤ小紫ですってそれなら柳橋じゃない吉原でしょう。ナーニ柳橋にも小紫というおいらんがありますよ。スルト、嚊め柳橋においらんがありますか、そりゃ始て聞きました。それでは柳橋の何屋に、などと来るだろう。柳橋の三浦屋サ先日高尾が無理心中をしたその跡釜へ今日小紫を抱えたのサもっとも小紫は吉原の大文字に居た…

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