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源氏物語
げんじものがたり
作品ID5042
副題27 篝火
27 かがりび
著者紫式部
翻訳者与謝野 晶子
文字遣い新字新仮名
底本 「全訳源氏物語 中巻」 角川文庫、角川書店
1971(昭和46)年11月30日改版
入力者上田英代
校正者kompass
公開 / 更新2003-10-04 / 2014-09-18
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

大きなるまゆみのもとに美しくかがり
火もえて涼風ぞ吹く    (晶子)

 このごろ、世間では内大臣の新令嬢という言葉を何かのことにつけては言うのを源氏の大臣は聞いて、
「ともかくも深窓に置かれる娘を、最初は大騒ぎもして迎えておきながら、今では世間へ笑いの材料に呈供しているような大臣の気持ちが理解できない。自尊心の強い性質から、ほかで育った娘の出来のよしあしも考えずに呼び寄せたあとで、気に入らない不愉快さを、そうした侮辱的扱いで紛らしているのであろう。実質はともかくも周囲の人が愛でつくろえば世間体をよくすることもできるものなのだけれど」
 と言って愛されない令嬢に同情していた。そんなことも聞いて玉鬘は親であってもどんな性格であるとも知らずに接近して行っては恥ずかしい目にあうことが自分にないとも思われないと感じた。右近もそれを強めたような意見を告げた。迷惑な恋心は持たれているが、そうかといって無理をしいようともせず愛情はますます深く感ぜられる源氏であったから、ようやく玉鬘も不安なしに親しむことができるようになった。
 秋にもなった。風が涼しく吹いて身にしむ思いのそそられる時であるから、恋しい玉鬘の所へ源氏は始終来て、一日をそこで暮らすようなことがあった。琴を教えたりもしていた。五、六日ごろの夕月は早く落ちてしまって、涼しい色の曇った空のもとでは荻の葉が哀れに鳴っていた。琴を枕にして源氏と玉鬘とは並んで仮寝をしていた。こんなみじめな境地はないであろうと源氏は歎息をしながら夜ふかしをしていたが、人が怪しむことをはばかって帰って行こうとして、前の庭の篝が少し消えかかっているのを、ついて来ていた右近衛の丞に命じてさらに燃やさせた。涼しい流れの所におもしろい形で広がった檀の木の下に美しい篝は燃え始めたのである。座敷のほうへはちょうど涼しいほどの明りがさして、女の美しさが浮き出して見えた。髪の手ざわりの冷たいことなども艶な気がして、恥ずかしそうにしている様子が可憐であった源氏は立ち去る気になれないのである。
「始終こちらを見まわって篝を絶やさぬようにするがいい。暑いころ、月のない間は庭に光のないのは気味の悪いものだからね」
 と右近の丞に言っていた。

「篝火に立ち添ふ恋の煙こそ世には絶えせぬ焔なりけれ

 いつまでもこの状態でいなければならないのでしょう、苦しい下燃えというものですよ」
 玉鬘にはこう言った。女はまた奇怪なことがささやかれると思って、

「行方なき空に消ちてよかがり火のたよりにたぐふ煙とならば

 人が不思議に思います」
 と言った。源氏は困ったように見えた。
「さあ帰りますよ」
 源氏が御簾から出る時に、東の対のほうに上手な笛が十三絃の琴に合わせて鳴っているのが聞こえた。それは始終中将といっしょに遊んでいる公達のすさびであった。
「頭中将に違いない。上…

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