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三太郎の日記 第三
さんたろうのにっき だいさん
作品ID50423
著者阿部 次郎
文字遣い旧字旧仮名
底本 「合本三太郎の日記」 角川書店
1950(昭和25)年3月15日
入力者Nana ohbe
校正者山川
公開 / 更新2012-03-20 / 2014-09-16
長さの目安約 205 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#ページの天地中央]

Inzwischen treibe ich noch auf ungewissen Meeren; der Zufall schmeichelt mir, der glattz[#挿絵]ngige; vorw[#挿絵]rts und r[#挿絵]ckw[#挿絵]rts schaue ich-, noch schaue ich kein Ende.



[#改ページ]

一 自ら疑ふ




 A 出來るだけ自分の心の中の生活の底を見せること――これより外に俺には書くことがなかつた。併し俺の割つて見せる生活の底を誰が見るのだ、どんな奴が見るのだ。
 B 僕は久しい間その疑惑の言葉を待受けてゐた。一體君がものを云ふ態度には頭隱して尻隱さずと云ふ趣がある。君は處女のやうな羞恥を以つて自分の生活の肌を見せることを恐れながら、而も普通以上の大膽を以つて自分の尻をまくつて見せてゐるのだ。尻をまくつて見せながら赤面してゐるのだ。君の自己告白の態度には、妙に極りが惡さうな、拘泥したところがあるから、平氣で云つてのければ特別の注意をひかずにすむところでも、君のやうな物の云ひやうをすると却つて他人の好奇心を煽るやうなことになるのだ。君の逡巡と内氣とは、却つて君の見せるを敢てしないところにまで、此處に注目せよとアンダーラインを引くと云ふ結果を持ち來してゐる。この間の矛盾は、君の表現の内容が深入りすればするほど、益[#挿絵]著しくなつて來てゐるやうだ。
 A 君の觀察は全く當つてゐる。それだから僕は物を書くたびに苦痛を感ずるのだ。人目は兎に角、自分が苦しいから、僕は一日も早く今日の態度を脱却したい。併しそれを脱却する爲に僕は Dialectic の方向をどちらに進めればいゝのだ。自分の生活の肌を全然裹んで了へばいゝのか。それとも何事も隱さずに裸かになつて世間の前に立つ方がいゝのか。
 自分に最も興味のある問題は、自分の最も他人に見せることを恥とする生活の肌である。或部分を見せて或部分を隱さうとすれば、徹底を求める表現の要求が承知しない。表現の要求を十分に滿足させようとすれば、群集の前に隱れようとする處女の羞恥が顏を赧くする。僕は一體どうすればいゝのだ。
 B The chariest maid is prodigal enough, if she unmask her beauty to the moon. 眞珠を豚に與へるのは愚かなことだ。
 A いや、考へて見るとやつぱりさうぢやなかつた。生活の肌は肉體の肌と違つて、他人に見せるを恥とすべきことではない。僕の Dialectic の行く先は「頭隱しの尻隱し」として徹底することではなしに、「頭隱さず尻隱さず」として徹底することでなければならない。逡巡も疑惑も要するに通り過ぎる雲だ。僕は自分の生活の肌をす…

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