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源氏物語
げんじものがたり
作品ID5044
副題29 行幸
29 みゆき
著者紫式部
翻訳者与謝野 晶子
文字遣い新字新仮名
底本 「全訳源氏物語 中巻」 角川文庫、角川書店
1971(昭和46)年11月30日改版
入力者上田英代
校正者伊藤時也
公開 / 更新2003-10-07 / 2014-09-18
長さの目安約 31 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

雪ちるや日よりかしこくめでたさも上
なき君の玉のおん輿    (晶子)

 源氏は玉鬘に対してあらゆる好意を尽くしているのであるが、人知れぬ恋を持つ点で、南の女王の想像したとおりの不幸な結末を生むのでないかと見えた。すべてのことに形式を重んじる癖があって、少しでもその点の不足したことは我慢のならぬように思う内大臣の性格であるから、思いやりもなしに婿として麗々しく扱われるようなことになっては今さら醜態で、気恥ずかしいことであると、その懸念がいささか源氏を躊躇させていた。
 この十二月に洛西の大原野の行幸があって、だれも皆お行列の見物に出た。六条院からも夫人がたが車で拝見に行った。帝は午前六時に御出門になって、朱雀大路から五条通りを西へ折れてお進みになった。道路は見物車でうずまるほどである。行幸と申しても必ずしもこうではないのであるが、今日は親王がた、高官たちも皆特別に馬鞍を整えて、随身、馬副男の背丈までもよりそろえ、装束に風流を尽くさせてあった。左右の大臣、内大臣、納言以下はことごとく供奉したのである。浅葱の色の袍に紅紫の下襲を殿上役人以下五位六位までも着ていた。時々少しずつの雪が空から散って艶な趣を添えた。親王がた、高官たちも鷹使いのたしなみのある人は、野に出てからの用にきれいな狩衣を用意していた。左右の近衛、左右の衛門、左右の兵衛に属した鷹匠たちは大柄な、目だつ摺衣を着ていた。女の目には平生見馴れない見物事であったから、だれかれとなしに競って拝観をしようとしたが、貧弱にできた車などは群衆に輪をこわされて哀れな姿で立っていた。桂川の船橋のほとりが最もよい拝観場所で、よい車がここには多かった。六条院の玉鬘の姫君も見物に出ていた。きれいな身なりをして化粧をした朝臣たちをたくさん見たが、緋のお上着を召した端麗な鳳輦の中の御姿になぞらえることのできるような人はだれもない。玉鬘は人知れず父の大臣に注意を払ったが、噂どおりにはなやかな貫禄のある盛りの男とは見えたが、それも絶対なりっぱさとはいえるものでなくて、だれよりも優秀な人臣と見えるだけである。きれいであるとか、美男だとかいって、若い女房たちが蔭で大騒ぎをしている中将や少将、殿上役人のだれかれなどはまして目にもたたず無視せざるをえないのである。帝は源氏の大臣にそっくりなお顔であるが、思いなしか一段崇高な御美貌と拝されるのであった。でこれを人間世界の最もすぐれた美と申さねばならないのである。貴族の男は皆きれいなものであるように玉鬘は源氏や中将を始終見て考えていたのであるが、こんな正装の姿は平生よりも悪く見えるのか、多数の朝臣たちは同じ目鼻を持つ顔とも玉鬘には見えなかった。兵部卿の宮もおいでになった。右大将は羽振りのよい重臣ではあるが今日の武官姿の纓を巻いて胡[#挿絵]を負った形などはきわめて優美に見えた。色が黒く、髭の…

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