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源氏物語
げんじものがたり
作品ID5046
副題31 真木柱
31 まきばしら
著者紫式部
翻訳者与謝野 晶子
文字遣い新字新仮名
底本 「全訳源氏物語 中巻」 角川文庫、角川書店
1971(昭和46)年11月30日改版
入力者上田英代
校正者kompass
公開 / 更新2003-10-13 / 2014-09-18
長さの目安約 46 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

こひしさも悲しきことも知らぬなり真
木の柱にならまほしけれ  (晶子)

「帝のお耳にはいって、御不快に思召すようなことがあってもおそれおおい。当分世間へ知らせないようにしたい」
 と源氏からの注意はあっても、右大将は、恋の勝利者である誇りをいつまでも蔭のことにはしておかれないふうであった。時日がたっても新しい夫人には打ち解けたところが見いだせないで、自身の運命はこれほどつまらないものであったかと、気をめいらせてばかりいる玉鬘を、大将は恨めしく思いながらも、この人と夫婦になれた前生の因縁が非常にありがたかった。予想したにも過ぎた佳麗な人を見ては、自分が得なかった場合にはこのすぐれた人は他人の妻になっているのであると、こんなことを想像する瞬間でさえ胸がとどろいた。石山寺の観世音菩薩も、女房の弁も並べて拝みたいほどに大将は感激していたが、玉鬘からは最初の夜の彼を導き入れた女として憎まれていて、弁は新夫人の居間へ出て行くことを得しないで、部屋に引き込んでいた。仏の御心にもその祈願は取り上げずにいられまいと思われた風流男たちの恋には効験がなくて、荒削りな大将に石山観音の霊験が現われた結果になった。源氏も快心のこととはこの問題を見られなかったが、もう成立したことであって、当人はもとより実父も許容した婿を自分だけが認めない態度をとることは、自分の愛している玉鬘のためにもかわいそうであると思って、新婦の家としてする儀式を華麗に行なって、婿かしずきも重々しくした。早くそのうちに自邸へ新夫人を引き取って行きたいと大将は思っているのであるが、源氏は簡単に良人の家へ移るとしても、そこにはうれしく思っては迎えぬはずの第一夫人もいるのが、玉鬘のために気の毒であるということを理由にしてとめていた。
「何もかも穏やかに行くようにして、双方とも譏られたり、恨んだりすることを避けなければならない」
 と源氏は言うのである。実父の大臣は、この結婚がかえってあなたのために幸福だと思う。忠実な支持者がなくて派手な宮仕えに出ては苦しいことであろうと自分は心配でならなかった。助けたい志は十分にあるが、もう後宮には女御が出ているのであるから、私としてはどうしてあげようもないのだからと、こんな意味の手紙を玉鬘へ送った。それは真理である。相手が帝でおありになっても、第一の寵はなくて、ただ御愛人であるにとめられて、あやふやな後宮の地位を与えられているようなことは、女として幸福なことではないのである。三日の夜の式に源氏が右大将と応酬した歌のことなどを聞いた時に、内大臣は非常に源氏の好意を喜んだ。皆ともかくも人に知らすまいとした結婚であったが、まもなくおもしろい新事実として世間はこのことを話題にし出した。帝もお聞きになった。
「残念だが、しかしそうした因縁だった人も、一度自分の決めたことだから後宮にはいることとは…

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