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源氏物語
げんじものがたり
作品ID5052
副題37 横笛
37 よこぶえ
著者紫式部
翻訳者与謝野 晶子
文字遣い新字新仮名
底本 「全訳源氏物語 中巻」 角川文庫、角川書店
1971(昭和46)年11月30日改版
入力者上田英代
校正者kumi
公開 / 更新2004-03-24 / 2014-09-18
長さの目安約 23 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

亡き人の手なれの笛に寄りもこし夢の
ゆくへの寒き夜半かな   (晶子)

 権大納言の死を惜しむ者が多く、月日がたっても依然として恋しく思う人ばかりであった。六条院のお心もまたそうであった。御関係の薄い人物でも、なんらかのすぐれたところを持っている者の死は常に悲しく思召す方であったから、柏木の衛門督はまして朝夕にお出入りしていた人であったし、またそうした人たちの中でも特に愛すべき男として見ておいでになったのでもあるから、一つの問題は別としてお心に上ることが多かった。四十九日の法事の際にも御厚志の見える誦経の寄付があった。何も知らぬ幼い人の顔を御覧になってはまた深い悲哀をお感じになって、そのほかにも法事の際に黄金百両をお贈りになった。理由を知らぬ大臣はたびたび感激してお礼を申し上げた。大将もいろいろな形式で従兄であり、夫人の兄であり、親友であった大納言の法会を盛んにする志を見せ、一方ではこの際の御慰問として未亡人の一条の宮へも物を多くお贈りすることを忘れなかった。兄弟以上の親切を故人のために尽くす大将を大臣も夫人も、これほどまでの志があるとは思わなかったと喜んでいた。故人の持っていた勢力が法事の際にはなやかに現われたことなどからも両親はまた亡き子を惜しんだ。
 御寺の院は女二の宮もまた不幸な御境遇におなりになったし、入道の宮も今日では人間としての幸福をよそにあそばすお身の上であるのを、御父として残念なお気持ちがあそばすのであるが、この世のことは問題にすまいとしいて忍んでおいでになった。仏勤めをあそばされる時にも、女三の宮もこの修業をしているであろうと御想像あそばすのであって、宮が出家をされてからは、以前にも変わってちょっとしたことにも消息を書いておつかわしになった。御寺に近い林から抜いた竹の子と、その辺の山で掘られた自然薯が、新鮮な山里らしい感じを出しているのを快く思召[#ルビの「おぼしめ」は底本では「おほしめ」]されて、宮へお贈りになるのであったが、いろいろなことをお書きになったあとへ、
春の野山は霞に妨げられてあいまいな色をしていますが、その中であなたへと思ってこれを掘り出させました。少しばかりです。

世を別れ入りなん道は後るとも同じところを君も尋ねよ

それを成就させるためには、より多く仏の御弟子として努めなければならないでしょう。
 法皇のお手紙を涙ぐみながら宮が読んでおいでになる所へ院がおいでになった。宮が平生に違って寂しそうに手紙を読んでおいでになり、漆器の広蓋などが置かれてあるのを、院はお心に不思議に思召されたが、それは御寺から送っておつかわしになったものだった。御黙読になって院も身に沁んでお思われになるお手紙であった。もう今日か明日かのように老衰をしていながら、逢うことが困難なのを飽き足らず思うというような章もある。この同じ所へ来るようにとの…

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