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如何に読書すべきか
いかにどくしょすべきか
作品ID50535
著者三木 清
文字遣い新字新仮名
底本 「読書と人生」 新潮文庫、新潮社
1974(昭和49)年10月30日
初出「学生と読書」1938(昭和13)年12月
入力者Juki
校正者小林繁雄
公開 / 更新2010-01-27 / 2014-09-21
長さの目安約 24 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

        一

 先ず大切なことは読書の習慣を作るということである。他の場合と同じように、ここでも習慣が必要である。ひとは、単に義務からのみ、或いは単に興味からのみ、読書し得るものではない、習慣が実に多くのことを為すのである。そして他のことについてと同じように、読書の習慣も早くから養わねばならぬ。学生の時代に読書の習慣を作らなかった者は恐らく生涯読書の面白さを理解しないで終るであろう。
 読書の習慣を養うには閑暇を見出すことに努めなければならぬ。そして人生において閑暇は見出そうとさえすれば何処にでもあるものだ。朝出掛ける前の半時間、夜眠る前の一時間、読書のための時間を作ろうと思えば何時でもできる。現代の生活はたしかに忙しくなっている。終日妨げられないで読書することのできた昔の人は羨望に値するであろう。しかし如何に忙しい人も自分の好きなことのためには閑暇を作ることを知っている。読書の時間がないと云うのは読書しないための口実に過ぎない。まして学生は世の中へ出た者に比して遙かに多くの閑暇をもっている筈だ。そのうえ読書は他の娯楽のように相手を要しないのである。ひとはひとりで読書の楽しみを味うことができる。いな、東西古今のあらゆるすぐれた人に接することができるというのは読書における大きな悦びでなければならぬ。読書の時間を作るために、無駄に忙しくなっている生活を整理することができたならば、人生はそれだけ豊富になるであろう。読書は心に落着きを与える。そのことだけから考えても、落着きを失っている現代の生活にとって読書の有する意義は大きいであろう。
 読書を欲する者は閑暇を見出すことに賢明でなければならぬと共に、規則的に読書するということを忘れてはならない。毎日、例外なしに、一定の時間に、たとい三十分にしても、読書する習慣を養うことが大切である。かようにして二十年間も継続することができれば、そのうちにひとは立派な学者になっているであろう。読書の習慣は読書のための閑暇を作り出す。読書の時間がないと云う者は読書の習慣を有しないことを示している。読書の習慣を得た者は読書のうちに全く特別の楽しみを見出すであろうし、その楽しみが彼を読書から離さないであろう。
 他の場合においてと同様、読書にも勇気が必要である。ひとは先ず始めなければならぬ。我々はつねに読書に好都合な状態にあるのではない。読書に好都合な状態ができてから読書しようと考えるならば、遂に読書しないで終るであろう。ひとたび読書し始めるならば、落着かない心も落着き、憂いも忘れられ、不運も心にかかることなく、すべて読書に好都合な状態が生ずるであろう。いやいやながら始めて、やがて面白くなってやめられなくなる場合が多い。先ず読書することから読書に適した気分が出てくる。ひとたび読書の習慣を得れば、習慣があらゆる情念を鎮めてくれる。落…

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