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友人一家の死
ゆうじんいっかのし
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「文豪怪談傑作選・特別篇 鏡花百物語集」 ちくま文庫、筑摩書房
2009(平成21)年7月10日
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2018-05-18 / 2018-04-26
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     ○

K君――――。
 物価暴騰の声に、脅やかされているばかりが能ではない。時には遊びの気分に浸って、現実の生活苦を忘れようではないか。――僕達はこうした主旨から、大正八年七月川開きの夜を、向島の百花園で、怪談会に興じた。
 泉鏡花氏、喜多村緑郎氏の他、発起人として尽力したのは、平山蘆江氏や三宅孤軒氏などであった。七夕祭の夜、喜多の家の茶荘に招かれた時、平山君や僕から言い出した催しとて、趣向の事や人の寄りなどに就いては、人知れず苦労していた。しかし世間には、同趣味の人達が多いと見えて、三十人か五十人、多くて七十人位であろうとの予想は外れて、当夜になると百五十人からの参集者があった。
 従って、シンミリと寂しかるべき怪談会は、意外にも賑かな陽気な集会となって、芸妓達の白い顔や、芸人達や料理屋の主人と云ったような、いなせな連中が気勢を添えてくれた。
「こんなに集っては、仕様がありませんね。会費をウンと高くして、十円位にすれば宜かった…………」
「え、五円と云うところでしたね。しかし数に於ては成功なんです。怪談祭の気味にはなったが、まず結構としておく事ですね」
 僕達はこんな事を云って、ボツボツ来始めた人達を案内しているところへ、自動車で駈け付けたのは、泉鏡花、喜多村緑郎、久保田万太郎などの諸氏であった。続いて錦城斎典山の顔が見えたり、伊井蓉峰、福島清、花柳章太郎などの姿が、幹事室の前に現れたりした。
 川村菊江、桜井八重子など、女優の顔も見えたようであった。赤坂、新橋、柳橋、浅草の芸妓達も、四五人ずつ連れ立って出席した。
 K君――僕はこの時、久し振りに、泉鏡花氏と逢って、怪談以上の或る悲しい事実を聴いた。
 僕は今それを、君に宛て書き送ろうと思う。

     ○

 鏡花氏と僕とが、初対面したのは、「風流線」を藤沢、喜多村が本郷座に上演した時か、それとも芝の紅葉館で、第何回目かの紅葉祭を催した時か。今たしかには覚えていないが、兎に角、途中で逢っても、「今日は」「や何処へ」と云う位の知合にはなっていた。
 その鏡花氏に逢って、僕が先ず聞いたのは、今井君夫妻の忘れ形見の身の上なのであった。
「去年でしたか、上京してお宅に居ると云う端書をくれた限りで、無沙汰しているのですが、今は何うしていますでしょう。一度お宅へ伺って、今井の娘にも逢おう逢おうと思っていながら、つい御無沙汰していましたが…………」
「おう、その今井の娘に就いては、実に気の毒な話があるのですよ。私の宅へ来てから……………」
と、鏡花氏と僕が話かけているところへ、いろんな人が挨拶に来たので、僕は心にかかりながら、喜多村氏と他の話をしたり、来会者へ挨拶したりして、忙しい一時間を過ごした――。
 K君――この今井と云うのは、僕と同じ作州落合の生れで、幼年の頃から竹馬の友であると共に、また村役場へ…

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