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青鱚脚立釣
あおぎすきゃたつづり
作品ID50582
著者佐藤 垢石
文字遣い新字新仮名
底本 「垢石釣游記」 二見書房
1977(昭和52)年7月20日
入力者門田裕志
校正者塚本由紀
公開 / 更新2015-09-03 / 2015-05-25
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 青鱚釣は例年八十八夜即ち五月上旬には釣れはじまる。江戸前三枚洲、ガン場、中川尻、出洲など大そうな賑わいである。また千葉方面では浦安、船橋なども人出が多く最近は周西方面まで遠征する人もあり、西海岸では立会川、鈴ヶ森、品川、羽田、川崎方面からも舟出する。
 この魚は餌に対する振舞になかなか微妙なところがあり、鈎に掛ってから引きが強いので昔から大層な人気がある。少し臭みはあるが味はなかなかよく珍重される。黎明の頃から釣るならわしになっているが、これは朝の海は静かで釣りいいからで午前三時には河岸払いをする。即ち舟を出すのである。であるから釣客は大抵前晩に船宿へつめかけていて少しの間眠り、やがて舟の用意が出来ると竿を携えて乗り、舟の中で朝飯を食う。これがなかなかおいしいものである。釣場へつくと船が適当の場所を選定して脚立を立てて呉れるからそれに乗換えて釣りはじめるのであるが、潮通しのよろしい場所でないとよく釣れない。であるからこの釣にはよく当り外れが伴い上手な人でも一尾も釣れない場合がある。釣れると例の長いビクを脚立から海へたれ下げるが釣れない内はビクを下してはいけない。これは遠くから船頭が見て釣れたか釣れないかの見分けとするためである。
 熱心にやって見て釣れない場合は竿をあげて合図をすると船頭は舟を漕いで来て別の場所へ脚立を移して呉れるのである。竿は一丈一尺が定法で全体に調子を持った強いものがよく、しかも軽くなければならない。兎に角竿尻を握って腕を突き出して一日釣るのであるから三十匁以内の軽いものでないと疲れて鈎合せがきかなくなる。道綸は二厘五毛のテグスを黒く染めたもの、鈎素はみがきの二厘のテグス。鈎は袖形七厘位がよく、近年はスレ鈎をつけることになっている。餌鈎で釣りそこなってもスレ鈎で引掛るという手段を用いたのである。スレ鈎は普通二本乃至三本つけるが、鈎は鮎掛鈎伊豆形の九分を用いるのである。錘はナス形が多く用いられ潮の早さにより二匁から六匁位まで用いる。餌はアオギスの大好物であるイソメだ。餌は最初一、二回は鈎先から少したれる位につけ魚の注意をひき盛んに餌をとられるようになったら餌を鈎一杯とする。脚立の上から潮下に向って錘を遠く打込み海底で錘をこづき加減に竿先を動かしているとゴツンと当りがある。素早く鈎合せをするが、それで餌鈎に掛らぬ時は、向うからスレ鈎に掛ってくれる。
 潮が深くなって竿先から道編が垂直に海へ下りている時、魚の当りがありそこで鈎合せをするとスレ鈎へ掛る。こちら合せである。向う合せでスレ鈎に掛った時は多く腹部にかかりこちら合せでスレ鈎に掛った時は魚体のどこへでも掛っている。何しろ口の小さい魚で、砂の穴から頭だけ出しているイソメを素早く食い取る習性を持っているから、鈎合せが早くないといつも釣り損う。



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