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小鰺釣
こあじつり |
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作品ID | 50591 |
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著者 | 佐藤 垢石 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「垢石釣游記」 二見書房 1977(昭和52)年7月20日 |
入力者 | 門田裕志 |
校正者 | 塚本由紀 |
公開 / 更新 | 2015-09-21 / 2015-05-25 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
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小アジ釣は誰にでもやれるのでファンが大分多い。それに沖合遠く漕ぎ出す必要がないから危険も少い訳である。横浜からも鶴見からも毎日乗合船が出て、一日一円五十銭程度であるから費用もかからない。
釣道具も餌も船頭が用意しておいてくれる。釣方も面倒ではない。簡単にやれる。錘は六、七十匁から百二、三十匁までであって両天びんになっている。鈎素の長さは一尋が普通であって小アジならば二厘柄の上等テグスを用い、形が大きくなれば太いものと替えて行く。しかし細いテグスの方がかかりがいいようである。道糸は五十尋糸巻に巻いておくが、六、七尋の処で釣れる場合もあるし、三、四十尋出さねばならない場合もある。漁師は大概道糸に麻糸を使っているが、渋糸を使った方が水ぎれもよく絡みもしないでよろしい。
餌はイカの短冊切かゴカイの一匹刺しで錘の傍につけたコマセ袋にイワシの叩き肉とそうめんをまぜ合せたコマセ寄せ餌を入れておくのである。餌の用意が出来たならば海の深さだけ道糸を繰り出し錘が海底へ着いたと分ったら一尺ばかり手繰り上げ、そこで二、三度錘を振るようにするとコマセ袋の中の寄せ餌がこぼれる。この寄せ餌を見てアジが集まって来て餌に食いつくのである。そして静かに道糸を上げ下げしている間に、ビクビクと来たらもうアジが食いついている。一尾かかったと思っても急いで上げてはいけない。ゆるゆるとやっている間に他の鈎にも食いつく。つまり一荷ずつ釣れるという訳である。この釣には小サバが交って釣れる。サバはアジと異ってなかなか引きが強く面白いものである。味も馬鹿にしたものではない。一塩のシメサバにすると魚屋の店頭にあったものとは比較にならない。横須賀、浦賀、久里浜方面にかけ、大アジ釣は五月の候がよろしいが、近海の小アジ釣は七、八、九の三ヵ月が最もよろしいのである。釣の初心者にはまことに喜ばれている。