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源氏物語
げんじものがたり
作品ID5060
副題45 紅梅
45 こうばい
著者紫式部
翻訳者与謝野 晶子
文字遣い新字新仮名
底本 「全訳源氏物語 下巻」 角川文庫、角川書店
1972(昭和47)年2月25日改版
入力者上田英代
校正者砂場清隆
公開 / 更新2004-04-06 / 2014-09-18
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

うぐひすも問はば問へかし紅梅の花の
あるじはのどやかに待つ  (晶子)

 今按察使大納言といわれている人は、故人になった太政大臣の次男であった。亡き柏木の衛門督のすぐの弟である。子供のころから頭角を現わしていて、朗らかで派手なところのある人だったため、月日とともに地位が進んで、今では自然に権力もできて世間の信望を負っていた。夫人は二人あったが、初めからの妻は亡くなって、現在の夫人は最近までいた太政大臣の長女で、真木柱を離れて行くのに悲しんだ姫君を、式部卿の宮家で、これもお亡くなりになった兵部卿の宮と結婚をおさせになった人なのである。宮がお薨れになったあとで大納言が忍んで通うようになっていたが、年月のたつうちには夫婦として公然に同棲することにもなった。子供は前の夫人から生まれた二人の娘だけであったのを、寂しがって神仏にも祈って今の夫人との間に一人の男の子を設けた。夫人は兵部卿の宮の形見の姫君を一人持っているのである。隔てを置かずに夫婦は母の違った娘と、父のない娘を愛撫しているのであったが、そちらこちらの姫君付きの女房などの間にうるさい争いなどの起こる時もあるのを、夫人はきわめて明るい快活な性質であったから、継娘のほうの女房の罪をつまびらかにしようとはせず、自身の娘のために不利なこともそのまま荒だてずに済ますよう骨を折ったから、家庭はきわめて平和であった。
 姫君たちが皆同じほど大人になったから裳着の式などを大納言は行なった。七間の寝殿を広く大きく造って、南の座敷には大納言の長女、西のほうには二女、東の座敷には宮の姫君を住ませているのであった。ちょっと思うとこの姫君は心細い身の上のようで気の毒だが、曾祖父の宮、祖父の太政大臣、父宮などの遺産の分配されたのが多くて、夫人は、高級の貴女の生活の様式をくずさず愛女をかしずくことができて、奥ゆかしい佳人の存在と人から認められていた。妙齢の娘のある家の常で、大納言家へは求婚者が続々現われてきたし、宮中や東宮からお話があるようにもなったが、陛下のおそばには中宮がおいでになる、どんな人が出て行ってもその方と同じだけの御寵愛が得られるわけもない、そう言って身を卑下して後宮の一員に備わっているだけではつまらない、東宮には夕霧の左大臣の長女が侍していて、太子の寵を専らにしているのであるから、競争することは困難であっても、そんなふうにばかり考えていては、人にまさった幸福を得させたいと思う女の子に宮仕えをさせるのを断念しなければならぬことになって、未来の楽しみがいもなかったことになると大納言は思って、長女を東宮へ奉ることにした。年はもう十七、八で美しいはなやかな気のする姫君であった。二女も近い年で、上品な澄みきったような美は姉君にもまさった人であったから、普通の人と結婚させることは惜しく、兵部卿の宮が求婚されたならばと、大納言はそんな…

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