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冬の鯊釣
ふゆのはぜつり
作品ID50612
著者佐藤 垢石
文字遣い新字新仮名
底本 「垢石釣游記」 二見書房
1977(昭和52)年7月20日
入力者門田裕志
校正者きゅうり
公開 / 更新2025-07-04 / 2025-07-03
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 彼岸の鯊は中気の薬というが、まだその頃の鯊は形が小さく、肉も軟かく、味が上等とはいえません。
 海に寒風が吹いて、釣姿に襟巻を必要とする時が来ると、鯊は大きく育って背の肉が盛り上るようになって食味をそそるのであります。三枚に下した天プラは誰でも愛賞し又カラ揚にして酢で食べれば実におつなものであります。だから家庭の御勝手を賑やかそうとする人は、冬の鯊釣に出掛けます。
 冬の鯊釣を下釣といって、十一月の末頃になり野に一霜か二霜降りると、それまで海の浅い処の芥や藻の下、河口の砂の上に遊んでいた鯊は、水の冷えるのを避けて沖へ出で、五、六尋の処に落ち込みます。この季節の鯊は脂肪も充分に乗って来て、腹に卵を持ち、立派な姿となって居ります。
 服装は寒さに堪えるだけの用意をして行かねばなりません。道具や餌は大抵船宿に用意してありますから、御弁当だけ持って行けばいい。婦人や子供達でも連れて行けば楽しい一日を暮らす事が出来ます。
 この釣は沖の深い処を流すのでありますから乗合船ですと座席に条件が伴います。即ち普通の場合はショウゲン(舟の座席の最もみよしに近い処)がよく、舟が後流れとなる時は、ともの座席がよろしい事になり、胴の間が最も不利な場所となります。家族連れですと一艘買い切って行き、互に入り替り乍ら賑かに釣る事が出来ます。
 船に乗ったならば万事船頭の指図に従い、錘が底に着いたならば引摺り加減にゆっくり小突きます。いつも錘を五寸以上、海底から上げないように心掛けるのです。最初船頭からおやりなさいという声がかかりましたら餌の大きいごかいを一匹差しにして鈎を下します。大きなごかいは魚の眼につきやすいから、魚が集って参ります。ごつんと当りがあったらゆっくり合せて上げますと、大きな奴がブルブルと上って参ります。
 鯊が盛んに餌につきはじめたならば、もうごかいの一匹づけの必要はありません。餌を細かくして鈎先に刺せば、いくらでも食いつきます。その時、忘れてならないのは常に手荒でなく、静かに竿先を二、三寸上下して、魚を誘う気持を失わぬ事です。上手になると鈎が口先にかかって、鈎を外すのに手早く、能率が上って参りますが、初心のうちは合せが遅れて、鈎を腹深く呑み込ませる場合があります。その時は、鋏で鯊の口を切って鈎を出すか、鈎外しを用います。乗合船では座席が狭いから、魚がかかった時周章てて隣の人の道具に糸を絡ませないように心掛けねばなりません。
 仕掛は川釣と違って、あまり細いのを用いる必要がありません。錘から上は二厘柄のテグス一本、その上の道綸はテグスと同じ太さ位の渋糸か人造で充分です。鈎素は一厘五毛柄四、五寸、鈎は七、八分が適当でしょう。錘は四、五匁から七、八匁位まで用意して置き、潮の早さと、深さによって着け替えが出来るようにして置きます。
 竿は外通し、中通し何れでもよろしく、三、四…

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