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ガラガラ釣
ガラガラつり
作品ID50616
著者佐藤 垢石
文字遣い新字新仮名
底本 「垢石釣游記」 二見書房
1977(昭和52)年7月20日
入力者門田裕志
校正者きゅうり
公開 / 更新2020-06-18 / 2020-05-27
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 小田原の筑紫誠一氏から、海岸でガラガラの投げ込み釣が大そう面白いからやって来ないか、という手紙が来たので、十六日午後から行って見た。ガラガラ釣とは、リール竿の海釣である。金属で作ったリールでなく、小田原の刳り物屋が作った木製の大きなリールで、それに約四十尋の人造テグスの太い道綸を巻き込み、竿は二本継一丈位。すこぶる頑丈に出来ている。鈎は二本の枝鈎で長い方が三尺、短い方が二尺、鈎は袖形の八分鈎素は磨きテグスの一厘五毛乃至二厘柄である。錘は円錐形十五匁から三十匁位まで用い、その日の浪の高低により付け替える。鈎素は錘の上約二寸位のところへ結ぶのである。
 餌は袋イソメと芝エビの肉を刻んでつけるが、袋イソメの方が断然成績がいい。筑紫氏が万事用意をしておいた。釣れるものは大きな白ギス、イシモチ、黒鯛、セイゴ、縞イサキ、夜釣ならば太いアナゴが盛んに釣れるという。四、五日前の夜小田原の某氏は長さ約三尺のフカの子を引っかけ三、四時間奮闘してとうとう浜へ引き上げてしまったという手柄話もある。だから夜は何が来るかわからない。すこぶる興味があるのである。
 酒匂川の川尻、即ち小田原の東方酒匂松濤園裏の淡水とかん水との間をねらうことにして、夕方から出掛ける。筑紫氏は甚だ技術がうまい。リール竿を後ろへかつぐようにしてなぎさへ走って行き、浪の引いた砂の上へ立って、竿先を振るとガラガラガラとリールの廻る音がして三十尋から五十尋は錘が飛んで行く。すこぶる愉快である。投げ込んで、糸を張っていると、白ギスならばピクブルブルと来る。黒鯛ならば、ゴリゴリと来るからグイと合せておいて、リールを巻く。掛った魚は浪打際を引きずられながら上って来るのである。
 私は、リール竿を振るのは今度がはじめてである。筑紫氏から呼吸を教えてもらう。はじめのうちは、糸が絡んでうまく錘が飛ばなかったが、四、五回練習するうちに次第に呼吸が判って来た。でもせいぜい二十尋か二十五尋位しか飛ばない。筑紫夫人もなかなか名手である。軽く振って二十五尋から、三十尋位は飛ばすのである。ガラガラ釣は夏のスポーツとして実に涼しい遊びである。
 夜、十時頃までやって、イシモチ十尾、白ギス八尾、黒ダイ一尾を得て引き上げた。兎に角二、三日引続いて練習すれば、三、四十尋位出すのはそれ程むずかしい技ではないと思った。なるべく沖合遠く投げ込んでおいて、そろそろリールを巻くと、砂底の場所では白ギスが釣れ、小石底のところではイシモチがかかる。浪が倒れる少し前方では黒鯛が来る。アナゴはどこでも食う。五、六十匁から百匁位の白アナゴが来るという。味もなかなかいい。
 道具一切は小田原の釣具屋で売っている。餌も東京から持って行く必要はない。釣道具屋では毎日一回ずつ横浜から取寄せておくから便利である、避暑がてら、夫人や子供を伴って小田原のガラガラ釣をやるのは楽しみ…

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