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源氏物語
げんじものがたり
作品ID5064
副題49 総角
49 あげまき
著者紫式部
翻訳者与謝野 晶子
文字遣い新字新仮名
底本 「全訳源氏物語 下巻」 角川文庫、角川書店
1972(昭和47)年2月25日改版
入力者上田英代
校正者kompass
公開 / 更新2004-05-15 / 2014-09-18
長さの目安約 117 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

心をば火の思ひもて焼かましと願ひき
身をば煙にぞする     (晶子)

 長い年月馴れた河風の音も、今年の秋は耳騒がしく、悲しみを加重するものとばかり宇治の姫君たちは聞きながら、父宮の御一周忌の仏事の用意をしていた。大体の仕度は源中納言と山の御寺の阿闍梨の手でなされてあって、女王たちはただ僧たちへ出す法服のこと、経巻の装幀そのほかのこまごまとしたものを、何がなければ不都合であるとか、何を必要とするとかいうようなことを周囲の女たちが注意するままに手もとで作らせることしかできないのであったから、薫のような後援者がついておればこそ、これまでに事も運ぶのであるがと思われた。
 薫は自身でも出かけて来て、除服後の姫君たちの衣服その他を周到にそろえた贈り物をした。その時に阿闍梨も寺から出て来た。二人の姫君は名香の飾りの糸を組んでいる時で、「かくてもへぬる」(身をうしと思ふに消えぬものなればかくてもへぬるものにぞありける)などと言い尽くせぬ悲しみを語っていたのであるため、結び上げた総角(組み紐の結んだ塊)の房が御簾の端から、几帳のほころびをとおして見えたので、薫はそれとうなずいた。
「自身の涙を玉に貫そうと言いました伊勢もあなたがたと同じような気持ちだったのでしょうね」
 こうした文学的なことを薫が言っても、それに応じたようなことで答えをするのも恥ずかしくて、心のうちでは貫之朝臣が「糸に縒るものならなくに別れ路は心細くも思ほゆるかな」と言い、生きての別れをさえ寂しがったのではなかったかなどと考えていた。御仏への願文を文章博士に作らせる下書きをした硯のついでに、薫は、

あげまきに長き契りを結びこめ同じところに縒りも合はなん

 と書いて大姫君に見せた。またとうるさく女王は思いながらも、

貫きもあへずもろき涙の玉の緒に長き契りをいかが結ばん

 と返しを書いて出した。「逢はずば何を」(片糸をこなたかなたに縒りかけて合はずば何を玉の緒にせん)と薫は歎かれるのであるが、自身のことを正面から言うことはできずに、洩らす溜息に代える程度により口へ出しえないのは、姫君のあまりに高貴な気に打たれてしまうことが多いからであった。それで兵部卿の宮と中の君の縁組みのことを熱心なふうに言い出した。
「それほど深くお思いになるのでなく好奇心をお働かせになることが多くて、お申し込みになったのを、冷淡にお扱われになるために、負けぬ気を出しておいでになるだけではないかと、私は考えもしまして、いろいろにして御様子を見ていますが、どうも誠心誠意でお始めになった恋愛としか思われません。それをどうしてただ今のようなふうにばかりこちらではお扱いになるのでしょう。ものの判断がおできにならぬほどの少女ではおられない聡明なあなたの御意見をよく伺いたいと私は思っているのですが、いつまでも御相談相手にしてくださいません…

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