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源氏物語
げんじものがたり
作品ID5067
副題52 東屋
52 あずまや
著者紫式部
翻訳者与謝野 晶子
文字遣い新字新仮名
底本 「全訳源氏物語 下巻」 角川文庫、角川書店
1972(昭和47)年2月25日改版
入力者上田英代
校正者kompass
公開 / 更新2004-08-28 / 2014-09-18
長さの目安約 83 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

ありし世の霧来て袖を濡らしけりわり
なけれども宇治近づけば  (晶子)

 源右大将は常陸守の養女に興味は覚えながらも、しいて筑波の葉山繁山を分け入るのは軽々しいことと人の批議するのが思われ、自身でも恥ずかしい気のされる家であるために、はばかって手紙すら送りえずにいた。ただ弁の尼の所からは母の常陸夫人へ、姫君を妻に得たいと薫が熱心に望んでいることをたびたびほのめかして来るのであったが、真実の愛が姫に生じていることとも想像されず、薫のすぐれた人物であることは聞き知っていて、この縁談の受けられるほどの身の上であったならと悲観を母はするばかりであった。
 常陸守の子は死んだ夫人ののこしたのも幾人かあり、この夫人の生んだ中にも父親が姫君と言わせて大事にしている娘があって、それから下にもまだ幼いのまで次々に五、六人はある。上の娘たちには守が骨を折って婿選びをし、結婚をさせているが、夫人の連れ子の姫君は別もののように思って、なんらの愛情も示さず、結婚について考えてやることもしないのを、妻は恨めしがっていて、どうかしてすぐれた良人を持たせ、姫君を幸福な人妻にさせてみたいと明け暮れそれを心がけていた。容貌が十人並みのものであって、平凡な守の娘と混ぜておいてもわからぬほどの人であれば、こんなに自分は見苦しいまでの苦労はしない、そうした人たちとは別もののように、もったいない貴女のふうに成人した姫君であったから、心苦しい存在なのであると夫人は思っていた。娘がおおぜいいると聞いて、ともかくも世間から公達と思われている人なども結婚の申し込みに来るのがおおぜいあった。前夫人の生んだ二、三人は皆相当な相手を選んで結婚をさせてしまった今は、自身の姫君のためによい人を選んで結婚をさせるだけでいいのであると思い、明け暮れ夫人は姫君を大事にかしずいていた。守も賤しい出身ではなかった。高級役人であった家の子孫で、親戚も皆よく、財産はすばらしいほど持っていたから自尊心も強く、生活も派手に物好みを尽くしている割合には、荒々しい田舎めいた趣味が混じっていた。若い時分から陸奥などという京からはるかな国に行っていたから、声などもそうした地方の人と同じような訛声の濁りを帯びたものになり、権勢の家に対しては非常に恭順にして恐れかしこむ態度をとる点などは隙のない人間のようでもあった。優美に音楽を愛するようなことには遠く、弓を巧みに引いた。たかが地方官階級だと軽蔑もせずよい若い女房なども多く仕えていて、それらに美装をさせておくことを怠らないで、腰折歌の会、批判の会、庚申の夜の催しをし、人を集めて派手に見苦しく遊ぶいわゆる風流好きであったから、求婚者たちは、やれ貴族的であるとか、守の顔だちが上品であるとか、よいふうにばかりしいて言って出入りしている中に、左近衛少将で年は二十二、三くらい、性質は落ち着いていて、学問はで…

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