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蒼炎石
そうえんせき
作品ID50711
原題THE ADVENTURE OF THE BLUE CARBUNCLE
著者ドイル アーサー・コナン
翻訳者大久保 ゆう
文字遣い新字新仮名
入力者大久保ゆう
校正者
公開 / 更新2009-12-25 / 2014-09-21
長さの目安約 37 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 友人シャーロック・ホームズのもとを、私はクリスマスの二日後に訪れた。時候の挨拶をしようと思ったのだ。ホームズは紫の化粧着姿で、ソファにくつろいでいた。右手の届くところにパイプ置きがあり、今読んでいるところなのだろう、手元にはぐちゃりと朝刊の山が積まれている。ソファのそばには木の椅子があり、背の角にちょうど、趣味の悪い堅めのフェルト帽がひっかけられていた。ずいぶんくたびれていて、何ヶ所か破れてしまっている。座る場所に拡大鏡とピンセットがあったので、帽子がこんなふうにつるされているのは、何か調べるためなのだろう。
「仕事中か。」と私は言った。「お邪魔かね。」
「とんでもない。推理を聞いてくれる友人なら大歓迎だ。ほんの些細なことなのだが、」――ホームズは親指を使って、古い帽子の方を指し示す――「実際やってみると、まったくつまらんというわけでも、学ぶところがないわけでもない。」
[#挿絵]
 私は肘掛椅子に座って、ぱちぱちと燃える火で手を温めた。外はひどく霜が降りていて、窓一面に氷の結晶が貼り付いている。「ということは、」と私は切り出す。「見た目はのほほんとしているが、こいつの裏には恐ろしい話が潜んでいるのか……だからこいつはその謎を解くための、罪を裁くための手がかりというわけだな。」
「いや、犯罪とは無関係だ。」とシャーロック・ホームズは笑い出す。「数マイル四方の空間のなかで四百万の人間が押し合いへし合いしているとふと起こってしまう、そんな気まぐれな小さな出来事のうちのたったひとつに過ぎない。大勢の人間が密集していれば、その作用と反作用のなかで、出来事はいかようにも組み合わさって、何ごとでも起こるものだ。犯罪には無関係なのに、奇抜で不思議な小さな事件というのは、いくらでも現れる。以前にもそういうことがあったね。」
「確かに。」と私は答えた。「備忘録に書き加えた直近の事件むっつのうち、みっつはいかなる法的犯罪とも無縁だった。」
「左様。今のみっつとは、アイリーン・アドラーから書類を奪還せんとした件、メアリ・サザランド嬢の奇天烈な事件、そしてねじれた唇の男をめぐる調査のことだが、さて、この小さな事件も、同じく無害な類に分けられるに相違ない。ピータソンは知っているね、便利屋の。」
「ああ。」
「この拾得物は彼のものだ。」
「彼の帽子か。」
「いや、見つけたのが彼だ。持ち主は分からない。こいつをひしゃげた帽子ではなく、知的な問題として考えてみたまえ。まずは、どのようにここへやってきたかだ。たどり着いたのはクリスマスの朝のことで、まるまると太った鵞鳥が一緒だった。まあ、その鵞鳥は今頃、ピータソンの家の暖炉の前で、あぶり焼きにされているに違いない。話はこうだ。クリスマスの日の午前四時頃、ピータソン――ご存じの通り正直者だが――彼がちょっとした宴会から家へ帰る途中、トテナム・…

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