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民選議院の時未だ到らざるの論
みんせんぎいんのときいまだいたらざるのろん
作品ID50722
著者神田 孝平
文字遣い新字新仮名
底本 「明六雑誌(中)〔全3冊〕」 岩波文庫、岩波書店
2008(平成20)年6月17日
初出「明六雜誌 第十九號」明六社、1874(明治7)年11月4日
入力者田中哲郎
校正者きゅうり
公開 / 更新2020-10-31 / 2021-08-29
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 民選議院あに容易に起るべけんや。時節到来せざれば、けっして起らず。かつ時節到来すといえども、その時節は、けっして喜ぶべき時節にはあらざるべし。
 そもそも民選議院建設の時節は、国体の変じて君主専権より君民分権に遷るの時なり。この時や、人民は権利を得ることなれば、あるいは不承知あるまじきか、それすらいまだ屹度とは云がたし。朝廷においてはその権の半を譲りたまうことなれば、快よく許可したまうべきや否や、いまだ知るべからず。もし快よく許可したまわば、おおいに事の捗取となるべけれども、この事ほとんどあるべしとも思われず、一時人心を慰撫せんがために与えたまえるがごときは、他日また奪回したまうことあるべければ、とかくいまだ確定とは云がたし。いわんや快よく許可したまわざるときは、人民いかに冀うといえども、せんすべなからん。我国人民の淳良なるを見れば、外国人のごとく兵を起し朝廷に迫り、戦い勝て条約を立るというほどにも至り難からん。ゆえに時節到来せざれば起らず。しかして方今は、いまだ到来の時節にあらざるなり。
 概してこれを論ずるに、聖賢位に在る間は、民選議院起らず。敵国・外患の迫らざる間は、民選議院起らず。外国人の金を貸す間は民選議院起らず。楮幣通用する間は、民選議院起らず。人民増税を甘承する間は、民選議院起らず。しかりといえども、世界は活物なり。いつでも聖賢、位に在りと定むべからず。いつでも敵国・外患なしと定むべからず。いつでも外国人、金を貸と定むべからず。いつでも楮幣、通用すと定むべからず。いつでも人民、増税を甘承すと定むべからず。向来時ありて人民増税を甘承せず、楮幣通用止まり、外国人金を貸さず、敵国・外患競い起り、聖賢たまたま位に在らざることあらん。万一かかることあらば、その時にはいかがわせん。民選議院起らずんば必ず国亡びん。国亡びずんば必ず民選議院起らん。これ我いわゆる時節到来の時なり。しかりといえども、これはなはだ企望すべきことにあらず。ゆえに云、時節到来すといえども、その時節は、けっして喜ぶべき時節にあらざるなり。



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